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横浜舞台芸術の創造拠点
【KAAT神奈川芸術劇場10周年】世相に切り込む作品発信 首都圏演劇界で個性確立
- KAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)
2021年1月14日公開 | 2021年1月3日神奈川新聞掲載


2011年1月11日の開館以来、横浜の新たな舞台芸術の創造拠点として存在感を示してきたKAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)がことし10周年の節目を迎える。
世相に切り込む特色ある作品を発信し続け、劇場の多い東京都に隣接しながらも首都圏の演劇界で個性を確立。若手演出家を積極的に起用するなど、将来の演劇界を担う人材の育成にも力を入れてきた。
一方で、開館直後の東日本大震災、昨年の新型コロナウイルスの感染拡大と二度の有事にも直面し、劇場の存在価値と向き合う10年でもあった。
眞野純館長、白井晃芸術監督のインタビューと、10年間の主な公演の写真で開館以降の歩みを振り返りながら、KAATが公共劇場として果たしてきた役割や今後の展望を見つめる。

神奈川芸術劇場

2011年1月開館。県が設置し、指定管理者の神奈川芸術文化財団が近くにある県民ホールと一体的に運営する。
全国でも数少ない「創造型劇場」で、音響や照明など多分野の専門スタッフが常駐。最大1300席のホールと小劇場などとしても活用できる4つのスタジオがあり、長期にわたり創作に携われる稽古場も備える。
2021年4月から3代目の芸術監督に演出家の長塚圭史が就任する。
⇨【KAAT公式ホームページ】KAAT 神奈川芸術劇場
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KAAT神奈川芸術劇場
住所 | 神奈川県横浜市中区山下町281 |
---|---|
アクセス | みなとみらい線日本大通り駅徒歩5分
|
電話 | 045-633-6500 |
公式HP | https://www.kaat.jp/ |
[おことわり]この情報は新聞掲載日時点での情報です。掲載日以降、内容に変更が生じる場合がありますのでご了承ください。
開館記念式典




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10年の歩み
2010年~

日本文学の金字塔である三島由紀夫の小説を舞台化した「金閣寺」。人間の魂の本質に深く迫った。原作・三島由紀夫、原作翻案・セルジュ・ラモット、演出・宮本亜門。2011年1月29日~2月14日上演(撮影・阿部章仁)
2011年

宮本亜門が東洋人演出家として初めてブロードウェーで披露したミュージカル「太平洋序曲」。本作を物語の舞台でもある神奈川の地でパワフルに上演した。作詞/作曲・スティーブン・ソンドハイム、台本・ジョン・ワイドマン、演出/振付・宮本亜門。2011年6月17日~7月3日上演(撮影・阿部章仁)
2012年

この世の裏側にあるもう一つの世界。不思議で懐かしい、夏休み最後の3日間の物語を描いた「暗いところからやってくる」。KAATキッズ・プログラムとして上演。作・前川知大、演出・小川絵梨子。2012年7月26日~8月5日上演(撮影・田中亜紀)
2013年

ピノキオが苦難を乗り越えて人間の少年へと成長するまでのストーリーが、多彩な音楽に合わせて表現されたファンタジックなミュージカル「ピノキオまたは白雪姫の悲劇」。原作・カルロ・コローディ、演出/脚色・宮本亜門。2013年8月23日~9月1日上演(撮影・西野正将)
2014年

白井晃のアーティスティック・スーパーバイザー就任第一作「Lost Memory Theatre」。音楽そのものを舞台化するとの構想で上演された。原案/音楽・三宅純、構成/演出・白井晃。2014年8月21日~31日上演(撮影・二石友希)
2015年

ラサール石井構想10年。バックステージで働く舞台スタッフが希望や夢、日頃のうっぷんを音楽に乗せてつづったオリジナルミュージカル「HEADS UP!」。脚本・倉持裕、原案/作詞/演出・ラサール石井。2015年11月13日~23日上演(撮影・國田茂十)
2016年

ブレヒト×バイルのコンビが生んだ傑作が音楽劇としてよみがえった「マハゴニー市の興亡」。作・ベルトルト・ブレヒト、作曲・クルト・バイル、演出/上演台本/訳詞・白井晃。2016年9月6日~22日上演(撮影・二石友希)
2017年

近代戯曲を現代によみがえらせるシリーズとして手掛けた、ドイツの劇作家ベデキント作「春のめざめ」。志尊淳初のストレートプレー作品。原作・フランク・ベデキント、構成/演出・白井晃。2017年5月5日~23日上演(撮影・二石友希)
2018年

長塚圭史が米国の現代演劇の旗手アーサー・ミラーの代表作に挑んだ「セールスマンの死」。風間杜夫、片平なぎさら実力派キャストが熱演。作・アーサー・ミラー、演出・長塚圭史。2018年11月3日~18日上演(撮影・細野晋司)
2019年

遺稿を基にした3つの長編小説が現存するフランツ・カフカ。もしも未発表の第4の長編が舞台化されたら―。多部未華子ら豪華キャストが集結したケラリーノ・サンドロビッチの書き下ろし「ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~」。作/演出・ケラリーノ・サンドロビッチ。2019年11月7日~24日上演(撮影・引地信彦)
2020年

白井晃の芸術監督ラストイヤー、KAAT10周年記念プログラムのキックオフとして上演した音楽劇「銀河鉄道の夜2020」。コロナ禍の困難の中、胸に迫る幻想的な舞台空間を実現。原作・宮沢賢治、演出・白井晃。2020年9月20日~10月4日上演(撮影・中村彰)
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世の中の一歩先を作る 眞野純館長インタビュー

思えば危機に明け暮れた10年だった。開館直後の東日本大震災、今年のコロナ禍。演者が客に直面し、時に飛沫(ひまつ)を浴びせ、空気そのものを共有する。そんな演劇の前提が揺らいだ。
「演劇は世の中の一歩先を予感しながら作る」が持論だ。社会の矛盾を、ひずみを際立たせた作品群が、私たちの立ち位置を問う。震災とコロナを両極に変転し続けた公共の形は、公共劇場というKAATの“自我”の投影でもある。
「実は半分ぐらいは東京からのお客さんなんです」。当初は東京との差別化が課題とされた。だが今では「東京圏の演劇界の、ある位置を占めることができている」。東京を(ヽヽヽ)引っ張り込んだ自負がある。KAATでしか見られない作品を発信してきた成果だ。
とりわけ白井晃が芸術参与、芸術監督を務めたこの7年間は「総花的にウイングを広げられた」。時には「貸し館」として劇団四季を大ホールに招いた。「芸術劇場」にポピュラーな商業演劇か、と異論もあったが「その1%でも、次はKAATの作品を見ようと思ってくれればいい」。
お客を呼べる公演で収支を安定させればこそ、若い演劇人による「まだ批評の言葉を持たれない作品たち」にも光が当てられると、そこまで見越している。
はっきり言う。「僕らは成功したと思います」。独創的な作品もスタッフも、苦心を重ねてこしらえた。だが、社会の速度はその上を行く。ある問題意識の下で作品を構想しているうちに、世の中の方が変わってしまう。
「それでも、どんな状況になろうと力を持ち、批評性を持つ作品を」と、むしろ数年かけて一公演を完成させるような息の長い体制を練っている。
この数年、貪欲に県内自治体を巡り、地域の特色や課題を体感した。「永遠のお付き合い」のつもりで、では演劇に何ができるかを考える。「県全体で必要だと認識してもらえるような活動をやらなきゃね」
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表現者の「熱」集まる場所 白井晃芸術監督インタビュー

「公共劇場でなければできないこと、という表現はいかにも偉そう。公共劇場が『やらかしてしまったこと』があってもいいと思っていた」と語る白井晃。2014年にアーティスティック・スーパーバイザー(芸術参与)に就任して以来、「既成概念を超え、アーティストが熱い表現衝動を打ち出せる個性的な劇場」を目指してきた。
演劇のみならず、現代美術の展示や音楽家との公開トークイベントも展開し「表現が集まる複合的な空間」を体現してきた濃密な7年を振り返り「劇場が多い東京に隣接していても『常に面白い挑戦をしている場所』として認知されてきたという自負はあります」と充実した表情を見せる。
草彅剛が悪役を演じた「アルトゥロ・ウイの興隆」など、自らも多くの話題作を演出。16日からは「アーリントン(ラブ・ストーリー)」を上演する。とある待合室で名前が呼ばれるのを待つ女性と、隣の部屋のモニターで女性を見つめる男性の物語は「利便性という名の元に、私たち自らが大きな組織に取り込まれていっている現代社会を象徴している。今こそ上演しなければならない作品だと思っています」と力を込める。
谷賢一や杉原邦生、多田淳之介ら若手演出家も積極的に起用し「将来の演劇を担う人材が経験を積める場」として機能したことにも手応えを感じているというが「まだ、目指す理想からは程遠い」と複雑な表情を見せる。
「約50年前、先輩たちが起こした小演劇運動などは社会や政治を動かす熱量を持っていましたが、今の演劇はおとなしすぎる。4月から芸術監督に就任する長塚圭史さんはそういった意味で『事件』を起こしてくれるはず。僕自身も今後の展開に期待しています」
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まとめ


KAATでは新進気鋭の現代美術家を招き、劇場ならではの空間で現代アートに気軽に親しむ機会を提供してきた。本来、美術品の展示場所とは見なされないスタジオなど劇場全体を使い、音楽や演劇、ダンスとコラボレーションしたイベントを行うことで、新しい魅力を紹介している。
2013年はアトリウムや外壁ガラス面を利用し、神奈川文化賞未来賞受賞の曽谷朝絵による色鮮やかなインスタレーションを展示。16年は前年のベネチア・ビエンナーレ国際美術展での展示が話題となった塩田千春が、大量の赤い糸と鍵を使ったインスタレーションでスタジオを圧倒した。
19年の小金沢健人展ではスモークをたき、舞台上で録音した音を流すなど、劇場の特性をより強く感じさせる工夫がなされた。
「ホワイトキューブ」と称される美術館の空間に対し、人間の喜怒哀楽が演じられる劇場の「ブラックボックス」で味わう美術の面白さを発信し続けている。
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