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うまい かながわ定食紀行 特別座談会|懐の深い焼きそば


 ソース、五目あんかけ、かた焼き、あるいはインスタント。ああ、なんと懐の深いことよ! というわけで年末恒例「かながわ定食紀行」の特別座談会のテーマは、焼きそばです。ゲストは、記念すべき初回の座談会以来、15年ぶりの登場となるクレイジーケンバンドのギタリスト、小野瀬雅生さん、席亭はおなじみ今柊二さん。横浜・長者町の名店「龍鳳」で、ご主人の楊義誠さんも交えて語り合いました。あんかけがテレレととろけ、麺がチリリと絡み合う多様で幸せな皿の風景を思い浮かべながら…。


今回の主役、焼きそば。たっぷりの野菜が麺を覆う
今回の主役、焼きそば。たっぷりの野菜が麺を覆う

東京もんは甘くない!

 夏に地元の町田でラーメンを食べてたら、クレイジーケンバンドの「横須賀ストーリー」が流れ始めてトンカチで頭をたたかれたような衝撃を受けました。その場でスマホを取り出してネットでCD(カバーアルバム「好きなんだよ」)を注文しました。

小野瀬 今回はやりたい放題でした。ただ、カバー曲には「お手本」があるので、それをむげにしないよう苦労もしました。

 後半のバンド感があるところ、何回も聴き直しましたよ。「横須賀ストーリー」といえば作詞は阿木燿子さんで、捜真女学校(横浜市神奈川区)のご出身。小野瀬さんはその辺りのお生まれだそうですね。

小野瀬 港北区で生まれて、ずっと妙蓮寺と菊名と新横浜の間で育ちました。

 焼きそば好きは、マルちゃんがスタートだと。

小野瀬 多分そうだと思います。子どものころ土曜に家に帰ると、中華鍋のでっかいのに焼きそばができていて、勝手に食べろという感じで。ずっと忘れていたのですが、昨年ふと思い出しました。

 私は愛媛の今治の生まれで小野瀬さんより5歳年下ですが、当時はマルちゃんの焼きそばは売っていなかった。上京して初めて食べてびっくりしました。

小野瀬 今ではスタンダード中のスタンダードですよね。

 小学生の時、仕事で母がいないと明星のインスタント焼きそばを自分で作っていました、そういえば。日清には青のり(ふりかけ)が付いていて。


鴨と春菊の薬膳スープ 
鴨と春菊の薬膳スープ 

小野瀬 付いてますね。母はデザイナーで、自宅に仕事場を設けて子ども服の縫製をしていました。新宿の伊勢丹に納めていたんです。だから外食というと新宿の伊勢丹。あとは渋谷の東急、横浜なら高島屋のお好み食堂というふうに、デパート育ちでした。横浜中華街に行くのは随分後です。

 うちも商売をやっていたから外食が多かった。外食の好きな母と一緒に、今治の来々軒という店で中華焼きそばを食べたものです。あんかけで、白湯(パイタン)で甘くない。この龍鳳も、横浜なのに中華街とは味が違います。小野瀬さんの本を読んで理由を知りました。

小野瀬 ご主人は横浜でなく東京で修業したそうです。だからこのお店は甘くない。

 東京の中華料理は甘くないですよね。

小野瀬 日本そばも甘くないのですが、甘くないと物足りなさも感じて…。

 横浜で甘い中華を食べると「帰ってきた感」がある。

小野瀬 全国で食べ歩いて分かったのは、横浜だけでなく全国で比べても、やっぱり東京は甘くない。甘さは、甘いのがぜいたくだった時代の名残なんですよね。松山の鍋焼きうどんに砂糖が入っているのにはショックを受けました。
〈紹興酒で乾杯!〉

エルドラド 市沢に現る


小野瀬雅生「焼きそばの果てしなき旅」(1430円)
小野瀬雅生「焼きそばの果てしなき旅」(1430円)

 焼きそばの本を出そうと思われたのは…。

小野瀬 コロナでコンサートが全然できず家にいた昨年夏、記憶の中のおいしい物を作ってみようと試していたんです。そこで、ふと焼きそばが面白いなと。麺を取り寄せて作るうちに、自分の中に脈々とある流れに気付き、そのことをネットで書いていたら「本を出しませんか」と声を掛けられたわけです。

 なるほど!

小野瀬 10年もブログを書き続けているのですが、食べ物の話題ばかりで音楽はちょっとだけ(笑)。振り返ってみれば、その中でも焼きそばの話が多く、その集大成になりました。

 僕も行ったことがある店がすごく多い。でも悔しいのは、甘味おかめ(東京・有楽町の交通会館内の甘味処)を書いているじゃないですか。僕は毎月行くほどの店なのに、焼きそばを食べたことがなかった!

小野瀬 焼きそばの“フィルター”を掛けないと見えてこないんですよね。そのことを呼び掛けるために本を書きました。

 市沢町にある大判焼きマツモト(横浜市旭区)にも行ってらっしゃいますよね。遠かったでしょう。

小野瀬 最寄り駅が遠くてバスに乗って。こんな所に? という場所にある明るい店で、地元の人がおいしそうに食べてました。

 パッと開かれたエルドラド(黄金郷)みたいな場所ですね。

小野瀬 「焼きそばの目」で見ないと気付かない。実家にも近いのですが、最近まで知りませんでした。

 大口のあづま商店(同市神奈川区)も知らなかった!

小野瀬 「焼きそば愛」にあふれた店です。トッピング、それにご飯を付けて。

 ご飯も一緒に食べるんですね。


ずっしり重量感のあるシューマイ 
ずっしり重量感のあるシューマイ 

小野瀬 ご飯は今までピンとこなかったんですが、北海道の焼そばランラン(札幌市)で焼きそばライスに出合ったのがちょっとした衝撃で。カレーライスのカレーが焼きそばになってるような感じです。

 その後スイーツも食べてましたね。

小野瀬 それは狸小路の新倉屋本店(同市)の花園だんごですね。

 これは立ち寄らなければ。焼きそばと団子って、いいなあ。

小野瀬 1個が小さめなので大丈夫です。

 北海道といえば、あれもすごいですよね、焼きそば屋(同市)。

小野瀬 味なし焼きそばですね。味が付いてなくて、ソースなどの調味料を自分で掛けるという…。

 革命的ですよね。

小野瀬 えーって思いました。

 焼きそば好きの中にも“麺食い”と具を楽しむ派があると思いますが。

小野瀬 僕は“麺食い”。

 生麦のマギーズキッチン(横浜市鶴見区)もいいらしい。麺をワシワシ食べる感じのようです。近々行こうと思っています。


かながわ定食紀行 第6巻 特盛編(神奈川新聞社、858円)
かながわ定食紀行 第6巻 特盛編(神奈川新聞社、858円)

山ではない 平野である

小野瀬 先日、県民ホールでコンサートがあったのですが、幕が開いて「ああ、お客さんいるわあ!」と思いました。やっと戻ってきたなと。長い1年半でした。

 ですよね。

小野瀬 焼きそばのことはいろいろできましたけど。

 天丼もお好きですよね。

小野瀬 ええ、天丼の本も出したいと思うほどですが、上位何軒かを見つけて満足しちゃっている部分もあるんですよ。以前、日本の天ぷらの頂点という人に好きな具で揚げてもらったこともあり、一つの到達点に来た感があるんです。

 確かに焼きそばの方がゴールが見えにくいかもしれない。ラーメンやカレーはみんな高い頂を目指す印象があるけど…。

小野瀬 焼きそばは山ではなく、平野ですね。

 いい表現だなあ!

小野瀬 地域性がありすぎて。地元の製麺所の情報などは入ってこないんですよ。

 一番好きな焼きそばといえば?

小野瀬 現時点では富士宮焼きそばの麺ですね。戦後、中国から引き揚げた人たちがビーフンを作ろうとしたけれど、米粉がない。そこで小麦粉を使ったところ、あの麺ができたそうです。蒸し麺なのに乾いていて、でもすぐに戻る。独特の食感と透明感。裏話を聞いたらほれてしまいました。


旬を取り入れた前菜。手前が栗の渋皮煮
旬を取り入れた前菜。手前が栗の渋皮煮

 富士宮焼きそば、いいですねえ。

小野瀬 2000年代初めごろにはやりましたよね。最初は「ちょっとおいしいやつ」ぐらいに思ってたのですが…。

 やっぱり現地は違う?

小野瀬 全然違いました。前島(静岡県富士宮市)という、駄菓子屋さんでおばちゃんが作ってくれる焼きそばは衝撃的でした。何度も通って麺の秘密を教わるうちに「ひげの人、前来たわよね」と言われて(笑)

 北千住のりんりん(東京都足立区)は高校生が部活帰りに立ち寄るんです。ファンタグレープと焼きそば、みたいな。

小野瀬 いいですよね。

 製麺所で味が違ったり、観光客向けの店と地元の人向けの店があったり。讃岐うどんに通ずる文化ですね。富士宮の麺は歯ごたえ系ですか。

小野瀬 ええ、歯ごたえと麺の食感が好きになりました。山梨県の富士吉田にも吉田うどんという硬い麺があって、富士山を挟んだ両側に歯ごたえのある麺があるという。一時期、軟らかいうどんが好きだったのですが、夢の中に麺の神様が出てきて「吉田うどんに申し訳が立つのか」と。

 神様(笑)

小野瀬 よく出てくるんですよ。ある時はたばこの神様が「お前のたばこはもうおしまいじゃ」と。後ろにビールの神様もいて「ビールも終わりだよ」と(笑)

店も音楽も客が育てる


焼きそば
焼きそば

〈お待ちかね、焼きそば登場! ここから店主の楊義誠さんも参加して…〉

 この店が「東京中華」の系譜だと小野瀬さんの本で知って感動しました。

 祖父は130年ぐらい前に日本に渡ってきました。東京・神楽坂の龍公亭でチーフとして働いていて、父も母もいたんですけれど、空襲で店が全部燃えてしまった。その後、共同経営で再建したのですが、父の他界を機に共同経営を解消し、私がこちらで店を始めたというわけです。私が生まれたのは中華街のど真ん中なんですよ。

 でも修業は東京で?

 ええ、父から少し手ほどきを受けて。ただ父の時代、1970年代は今ほどメニューの種類は多くなかったです。かに玉、酢豚、青椒肉絲(チンジャオロース)、それに前菜とフカヒレスープがあれば十分という時代でした。お客さんは料亭さんや芸者さんといったお金持ちが多く、父は毎朝、築地市場でいい材料を仕入れていました。

 東京で食べた中華が甘くないのに驚きました。

 父の時代はもう少し砂糖を使ったかもしれません。甘いものに福がある、というわけで。最近は福建出身の人が増えて辛い料理も多くなりましたね。以前は、例えばイタリアの中華料理店がトマトをすごく使うように地産地消だったのですが、最近では日本でも空心菜のような中国野菜を育てるようになりました。

 ここはランチにも副菜が付いているので感動しました。

 毎日変えています。それを楽しみに来るお客さんも多いんですよ。中華も和風もあって、例えばこの栗の渋皮煮。筑波産で、毎年9月10日過ぎに入れるようにしています。


名物のカキチャーハン 
名物のカキチャーハン 

 すごくおいしい。

 これ、昔は家庭のおやつだったんですよ。学校から帰った子どもに食べさせるような。ところが作るのが大変で、今では日本料理店でもなかなか出さない。こういう物が日本の食文化にあるんだと私は伝えたくてね、意地でやってるんですよ。ロックの精神で。

小野瀬 春はタケノコが名物だし、その少し前にはフキノトウと鶏肉。ここで季節を知るんです。そろそろカキチャーハンが始まるなとか、正月の腸詰めとか。

 この店を始める前、明けても暮れても肉野菜炒め、ニラレバ炒めばかり作っていて思ったんです。いろんな物を頼んでもらえるようメニューを工夫しなければと。それで季節を大事にするようになりました。好きでやっているのですが、それも支持してくれるお客さんのおかげ。客が店を育てるのだと実感します。

小野瀬 バンドも同じです。支持があってこそのバンド。お客さんがバンドを育てるんです。

一同 ははあー!(感心しつつ、焼きそばを食べる)

*感染症対策に配慮して対談、会食しました。

今柊二さん最新作


今柊二「昭和平成令和定食紀行」(880円)
今柊二「昭和平成令和定食紀行」(880円)

 おのせ・まさお ミュージシャン、食のコラムニスト。1962年横浜市港北区生まれ。「クレイジーケンバンド(CKB)」のリードギタリスト、バンド「小野瀬雅生ショウ」のリーダーとして活躍する傍ら、高級・B級を問わず食べ歩きエッセーをブログやSNSを通じて日々発信。連載や著書も多い。最新刊は「焼きそばの果てしなき旅」(ワニ・プラス)。横浜DeNAベイスターズの熱烈ファンでもある。



 よう・ぎせい 龍鳳店主。1950年横浜市中区生まれ。祖父の代からの料理人。父が経営する東京・神楽坂の高級中華料理店「龍公亭」で修業し、横浜市南区でラーメン店を開業。78年11月に現在の地に本格広東料理の店として「龍鳳」をオープンした。



 こん・とうじ 定食と喫茶の評論家。1967年愛媛県生まれ。現在は東京都町田市在住。横浜国大出身。著書に「立ちそば春夏秋冬」「定食バンザイ!」「丼大好き」「洋食ウキウキ」「定食と文学」「定食と古本」「とことん! とんかつ道」「スイーツ放浪記」「土曜の昼は中華街」など多数。最新刊は「昭和平成令和定食紀行」(竹書房)。本紙連載をまとめた「かながわ定食紀行第6巻 特盛編」も発売中。



龍鳳

住所 横浜市中区長者町7の112、伊勢佐木センタービル2階
電話 045(261)0308
公式HP https://ryuhou.com/
備考欄 ※営業時間・定休日は[HP]で確認を

[おことわり]この情報は新聞掲載日時点での情報です。掲載日以降、内容に変更が生じる場合がありますのでご了承ください。

2022年1月12日公開 | 2021年12月19日神奈川新聞掲載

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