気になる 戦後日本を代表する版画家・彫刻家、浜田知明の展覧会 茅ケ崎市美術館6日まで

戦後日本を代表する版画家・彫刻家の一人、浜田知明(ちめい)(1917~2018年)の展覧会「浜田知明 アイロニーとユーモア」が、茅ケ崎市美術館(同市東海岸北)で開かれている。02年に同館に寄贈された代表作を含む1950~80年代までの版画56点と、県立近代美術館所蔵の90年以降の版画や彫刻作品など計約70点を、年代や作風ごとに分け4章で紹介。時代に向き合った浜田の画業をたどる。
熊本県生まれの浜田は、1939年に東京美術学校(現東京芸術大)を卒業後、中国大陸などに従軍。その過酷な戦争体験を基に、50年から戦争の本質を暴く銅版画「初年兵哀歌」シリーズを制作した。痛烈な皮肉とユーモアの精神で捉えた浜田の表現は国内外で高く評価され、日本の現代版画に多大な影響を及ぼした。83年以降は彫刻作品も制作。2000年を最後に版画制作から離れたが、晩年に至るまで創作意欲は衰えなかった。
代表作「初年兵哀歌(歩哨(ほしょう))」(54年)は、塹壕(ざんごう)で1人の歩哨(軍隊で警戒や見張り役の兵士)が銃を喉に突きつけ、足の指で引き金を引こうとしている姿を描いている。エッチングの金属的な線と、アクアチントで表現した深い暗闇が、鋭い心の痛みと孤独感を訴えかける。
自ら命を絶とうとする歩哨は、過酷な軍隊生活の中で自殺を考えていた浜田自身の姿でもあったという。戦後、その体験を描かずにはいられなかった浜田は「是が非でも訴えたいものだけを画面に残すために、他の一切を切り捨て、色彩を捨て、油絵の具という材料を捨て、そして白黒の銅版画を選んだ」と、言葉を残している。
一方でユーモアを伴う作品も数多く残す。いら立つ自らを表現した「いらいらA」(74年)は、頭から放つ電波のようなものの先に目玉があり、さまざまな方向を向いている。ひし形の耳は大きく、目は赤い。口はU字形で、管のような胴体は渦巻き状で空っぽだ。神経が高ぶり、いら立った不安定な様がユーモラスに表されている。
コロナ禍で社会の分断や不穏な情勢が続く今、浜田の問いかけが迫ってくる。
6日まで。一般700円ほか。問い合わせは同館、電話0467(88)1177。
2022年2月3日公開 | 2022年2月3日神奈川新聞掲載
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