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推し タブレット純のかながわ昭和歌謡波止場(16)
五木ひろし◆よこはま・たそがれ

作詞/山口洋子・作曲/平尾昌晃
作詞/山口洋子・作曲/平尾昌晃

舶来色の街浮かぶ 3分の映画

 常に、頭のてっぺんから声が出ている人。回転寿司(すし)屋で「明太サラダ軍艦」を頼んだら「しめさば」が出てきてしまった、ふだん声の弱々しいぼくにはうらやましい限りなのですが、しかし歌における“てっぺん声”は「のど自慢」に終始してしまうのかもしれません。

 反対に、その歌声をして“靴の先から声が出ている”と評されたのは、五木ひろしさん。それも蛍雪の、まだ夜明け前の時代のことです。五木さんの目の前には、若くして銀座で一国一城の“姫”となった、バーのマダムの姿がありました。真の芸人ほど、私生活では靴の先までピカピカにしている、とはお世話になっている浅草・東洋館の松倉会長の言葉ですが、そんなダンディズムにも共通する、夜の社交場で酸いも甘いもかみ分けた女性ならではの慧眼(けいがん)、極上の賛辞に思えます。


山下橋たもとにあったバンドホテル。完成したばかりの新館からは横浜港が一望できた=横浜市中区(1968年、神奈川新聞社撮影)
山下橋たもとにあったバンドホテル。完成したばかりの新館からは横浜港が一望できた=横浜市中区(1968年、神奈川新聞社撮影)

山下橋たもとにあったバンドホテル。完成したばかりの新館からは横浜港が一望できた=横浜市中区(1968年、神奈川新聞社撮影)
山下橋たもとにあったバンドホテル。完成したばかりの新館からは横浜港が一望できた=横浜市中区(1968年、神奈川新聞社撮影)

 五木さんご本人も、すでに2度の再デビューで傷つき、夜の巷(ちまた)の弾き語りで糊口(ここう)をしのいでいる身としての思惑が。「頭の固い大御所におもねっても、もはやこれっぽっちも得はない」。当時低迷する歌手たちのいわば実録サバイバル番組「全日本歌謡選手権」の2回戦で、五木さんは後に大作詞家となる山口洋子さんと運命の出会いを果たしました。そしてその伏線には、平尾昌晃さんの存在が。

 1回戦で「ダメだ! そんな歌い方じゃ絶対売れない」とある方に酷評された五木さんに対し、かねて“審査員の一時的な空気”で落とされることを苦々しく思っていた平尾さんが「企画性を持たせれば絶対に化ける!」と助け舟。何とか初戦を通った事で、歌謡界に風穴を開ける先鋭的な布陣がいよいよ整っていったのです。

 10回勝ち抜けば、背水の陣、その最後の港に立てる。順調に歩を進める五木さんに「男一匹の勝負を挑んでいる、殺気というか、ただならぬ気迫を感じた」と後に語った山口さんは、愛してやまなかったプロ野球、そのマウンドに立つピッチャーの背中を見ていたのかもしれません。

 そうしてついに迎えた天王山。五木さんは勝負曲に三谷謙の「雨のヨコハマ」(1969年・昭和44年)という曲を選びました。そう、三谷こそ、実は五木さんの当時の芸名。その前にはさらに改名前の“一条英一”時代の曲でも勝ち進み、あえて自分の“失敗曲”を駒に据える潔さ…うそをつかぬ縮図のような戦いは、実直な青年の横顔にも映えて、見事に功を奏したのです。


絵/タブレット純
絵/タブレット純

 五木ひろしとしてのデビュー曲「よこはま・たそがれ」(71年・同46年)は、雨をプロローグして、1羽のかもめ飛ぶ横浜の夕空が。原題は「あの人はいってしまった」…それは過ぎ去った者たちへの、恨み節ではない、都会的な女性ならではの鎮魂歌。平尾さんいわく“アメリカンポップスのビート”に乗って、舶来色の街が明滅する見事な3分の映画となりました。

 さいごに、少々自慢話を。ぼくの持つ「雨のヨコハマ」、そのジャケット裏には“タブレットさんへ。三谷謙”のサインが! 歌番組でご一緒することがかなった五木さんが、思い出しながら、かみしめるように、時空を超えて刻んでくださったあの時の優しい、遠いまなざし…。あぁ、皆さまに見せたいけれど。そんな裏面も、紙面の匂いに遠くしのばせて頂けたら幸いです~。


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