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気になる 横浜美術館 アート彩時記(4)
木漏れ日の下で春を思う 奈良美智「春少女」

 まっすぐにこちらを見つめる少女は、まるで心地よく晴れた春の日、全身に木漏れ日を受けているかのように、瞳や髪がキラキラと輝いてみえます。「春少女」というタイトルにふさわしい、この光あふれる透明感はどうやって生まれたのでしょう。

 作者の奈良美智(よしとも)は、この絵画をアクリル絵の具という20世紀に誕生した画材で描いています。アクリル絵の具は、他の絵の具に比べて素早く乾く性質を持っています。例えば油絵の具では、乾くまでに時間がかかるため、キャンバスの上で分厚く絵の具を盛り上げて、異なる色を混ぜ合わせるように描いたりすることができますが、アクリル絵の具の場合、それは困難です。

 その代わりに、アクリル絵の具は色を塗り重ねても、下に塗った色と絵の具同士が混じってしまうということがありません。そこで作者は、薄く薄く、絵の具を何色も塗り重ねるように描くことで、それぞれの色がうっすらと透けて見えるようなアクリル絵の具ならではの方法により、透明感のある絵画を完成させました。薄いピンク1色に見える背景も、実物をよく見ると、複雑な色の重なり合いによって生まれた奥行きを感じる作品です。

 この作品は、今からちょうど10年前の2012年4月に完成しました。同年7月に開幕する横浜美術館での個展「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」に向けた作品制作の最終段階の時期で、また、11年3月11日に発生した東日本大震災から約1年後にあたります。青森県出身で東北に縁の深い作者にとって震災の衝撃は大きく、個展の準備は大きく方向転換していくことになりました。展覧会場で最後の部屋を飾ったこの作品には、作者にとっても、来場した人たちにとっても、震災後の記憶を呼び起こすものでもあるでしょう。(横浜美術館・木村 絵理子)

学芸員みちくさ話

 今年の桜はシーズンを終えてしまいましたが、横浜美術館の近くで桜を見るなら、桜木町駅近くの伊勢山皇大神宮と、そこから京急線日ノ出町駅をはさんで、大岡川沿いの桜並木へ向かうのがちょうど良い散歩コースです。日ノ出町駅付近から大岡川の河口を望むと、両岸の桜並木の間にみなとみらい21地区のランドマークタワーが見えてきて、横浜の新旧の街を一望できる興味深いエリアです。

 また横浜美術館では、奈良美智さんをはじめ、日本や世界各地からさまざまなアーティストや専門家を迎えて共に仕事をする機会があります。そうした時に、横浜を紹介する上で最適の訪問場所の一つでもあります。開港以来の港の歴史や戦後の歩みを、現在の街並みと比較しながら紹介できるという表向きの理由もありますが、何よりいろいろな国の食事を楽しめる場所としても、格好の話題を提供してくれます。(木村)

2022年4月18日公開 | 2022年4月17日神奈川新聞掲載

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