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民間アート施設「若葉町ウォーフ」が開館5周年で記念公演

横浜の下町・若葉町に拠点を置く民間アート施設「若葉町ウォーフ」(同市中区)が今月開館5周年を迎え、記念公演を開催する。6月9日から20日にかけて2作の一人芝居を上演。演出する佐藤信(78)は、コロナ禍にも独自の表現を模索してきた活動を振り返りながら「芝居の原点に立ち返る舞台にしたい」と意気込む。
「波止場のひとり舞台」と銘打ち、故・別役実の「風のセールスマン」と佐藤作「控室」を上演する。ともに佐藤が演出し、「風の─」はキャリア50年超の龍昇(りゅうしょう)(69)、「控室」は石橋蓮司らによる劇団「第七病棟」出身の渡辺修(69)が演じる。
日本の不条理劇の第一人者、別役が柄本明に書き下ろした作品としても知られる「風の─」は、靴底シートを売り歩く男の物語。居場所を求めてさまよう男は、突拍子もない行動と語りでおかしさを醸しつつ、自らが存在する理由を追い求める。
佐藤が22歳の時に手がけた「控室」はギリシャ悲劇をアレンジした3部作の1作。負け知らずの剣闘士が控室で待機中、ある気配を感じ取り、じわじわと追い詰められていく。

「風の─」では男を見つめる「巨大な目玉」が登場する。「目玉も気配もまるでもう一人の自分。人間が持つ負の側面とともに、自身を相対的に捉える視点を芝居で描きたかった」と佐藤は言う。
スタジオと宿泊スペース、小劇場が一体となったウォーフは2017年6月に開館。「自由劇場」や「劇団黒テント」での活動をはじめ、1960年代から劇作家や演出家として演劇界をけん引してきた佐藤が演劇の原点を次世代に引き継ごうと立ち上げた。
アジアの舞台関係者との共同制作など企画を本格化させるはずだった年に新型コロナウイルスが流行。中止を余儀なくされたが、施設を街の「空き地」として開放し、「落書き」と称しアーティストらと壁を彩るなどして創作を絶やさなかった。近隣の文化施設や子どもたちを含めた交流拠点にもなっているという。
5年の歳月の中で地域に根ざしたウォーフ。「初心に返り、人と出会う芝居を大切にしたい」と語る佐藤は共に舞台を創る観客にも思いをはせる。「舞台はお客さんが入って初めて完成するもの。たとえ少人数でも演じる意義があると、コロナ禍に実感したんです」
今回の上演でも見る者の想像力に期待する。「年齢を重ねた私たちが体験的に語る物語から何かを感じ取ってもらえたら。舞台装置が消えた後も、皆さんの記憶に残り続けることが何よりの喜びです」
「風のセールスマン」は9~13日。「控室」は16~20日。前売り券3500円、当日券4千円、2作通し券5千円。問い合わせは若葉町ウォーフ、電話045(315)6025。
2022年6月1日公開 | 2022年6月1日神奈川新聞掲載
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