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画家・装丁家の矢萩多聞さんと娘のつたさんがエッセー 「美しいってなんだろう?」

世界思想社、1980円。22日午後6時半から、本屋・生活綴方(横浜市港北区)で読書会を開催
世界思想社、1980円。22日午後6時半から、本屋・生活綴方(横浜市港北区)で読書会を開催

 横浜出身の画家・装丁家の矢萩多聞と娘のつたがエッセー「美しいってなんだろう?」を刊行した。矢萩が出合ってきた「美しい」光景を「カトマンドゥ」「人」「火」などテーマごとにつづる。父の文章に率直な思いを返すのは、つた。「美しいとは何か」という問いから始まった親子の往復書簡のような対話は、時間と空間を超え、家族の歴史をなぞりながら生きることの本質に迫る。

 学校の教師と「そりが合わなかった」矢萩。9歳から両親と共に毎年インドやネパールを訪れていたが、中学1年で学校を辞めてからはインドと日本を往復する生活を送るようになる。そんな矢萩が「美しいもの」と聞いて思い浮かぶのは、インドの街中の落書きや、かみタバコで赤く染まった壁、仕事にいそしむ人々の姿だ。

 その「美しさ」は経済的価値や権威とは無縁のもの。矢萩は「女優だけでなく、掃除をする女性も美しいと感じる。外国人としてインドを訪れたからこそ、社会的な刷り込みや先入観がなくフラットな視線で物事を見ることができたのかもしれない」と振り返る。


「子どもは大人が安易に一般化した言葉では納得してくれない。娘の指摘を受けて書き直す作業に鍛えられました」と話す矢萩多聞=横浜市内
「子どもは大人が安易に一般化した言葉では納得してくれない。娘の指摘を受けて書き直す作業に鍛えられました」と話す矢萩多聞=横浜市内

 娘と共に原稿を書く中で、子どもにはそんな「刷り込み」がなく、自分自身にしか見えない価値を見つけることができることを改めて感じたという。「僕がぼんやり見ている景色の中にも、娘は宝物を見つける。子どもは美しいものをみつける天才だと思います」

 インターネット上での連載開始時に8歳だった娘も、先生との関係につまずき、不登校だった。多様性や個性の大切さが強調される今も、教育現場や社会の中で「効率」のために多様性が狭められているのではないか、と指摘する。「それぞれ違う感情を持つ人間が集まればいびつな集団になるのが当たり前だが、効率性を追求する現代社会では管理しやすい均質な集団に整えられてしまう」と矢萩。現代人はコストパフォーマンスを重視して失敗と無駄のない生活を志向するが、「そうすることで見失う『美しさ』も多いと思う」。

 矢萩が数十年前に撮影した少女の写真を本人に手渡そうとインドの田舎町を歩き回り、その日最後に入った茶屋のおかみさんが本人だったという逸話は象徴的だ。あてどない時間を過ごしたからこその高揚感とときめきが伝わってくる。

 多聞少年が「美しいもの」に出合う瞬間を見守っていた母・あかねさんは、連載開始直前にインドで倒れ、帰らぬ人となった。同書のあとがきには葬儀後、つたがあかねさんに向けて書いた文章を収録。矢萩が「これが文章ってもんだなと思った」と言う通り「あかねさんに会いたい」という一文で始まる彼女の叫びは、読む者を圧倒する名文だ。

 家族の面影が宿る本だからこそ装丁にはこだわった。見返しには“ツタ”模様、本扉には“あかね”色の紙を使用した。「紙の本はその質感で、電子書籍にはない体験をもたらしてくれる。本そのものからも家族の物語を感じてもらえたら」

2022年7月7日公開 | 2022年7月7日神奈川新聞掲載

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