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企画展「伝えたい情景~木版画家・山岸主計と現代作家たち~」 時代を超えて浮かぶ「情景」

大正から昭和にかけて活躍した藤沢市ゆかりの木版画家、山岸主計(かずえ)(1891~1984年)。山岸と、県内在住の若手作家2人の作品を併せて展示する企画展「伝えたい情景~木版画家・山岸主計と現代作家たち~」が、藤沢市アートスペース(同市辻堂神台)で開かれている。時代も作風も異なる3人の「伝えたい情景」を紹介している。
山岸は長野県美篶(みすず)村(現・伊那市)生まれで、15歳で上京。著名な画家が手がけた絵や図版を木版彫刻する「彫師」として美術界に入った。やがて自分で描いた絵を自分で彫り、刷る「創作木版画家」として制作活動を行い、戦後は長く藤沢市で暮らした。
同展では、彫師と創作木版画家の立場で手がけた作品約100点を、前・後期に分けて展示。現在開催中の後期では創作木版画作品など約50点が並ぶ。

代表的な作品の一つが、文部省(当時)嘱託として1926年から滞在した欧米諸国の風景をモチーフにした「世界百景」シリーズだ。展示ではシリーズの一部作品のスケッチ、墨刷り、色刷りと、手記から引用した山岸自身の回想文などを添える。スケッチには、洋画を学んで身につけた豊かな色彩感覚が表れている。「シカゴ市街」(28~31年)の大胆な俯瞰(ふかん)、橋を中心に木々の葉が画面を取り囲む「セーヌ河の秋色」(同)からは浮世絵の影響が見て取れる。鎌田さつき学芸員は「完成した色刷りは水彩画のように軽やかで、街の空気感も伝わってくる」と解説する。
隣接する展示室には、78年生まれの内田亜里(あり)=葉山町在住=と91年生まれの田中唯子(あいこ)=相模原市在住=の作品が並ぶ。
内田は古典技法のプラチナプリントを用い、長崎・対馬などを撮影した写真作品を制作。陰影に富んだ画面からは、土俗性や神秘性に満ちた対馬の自然と風土が感じられる。

一方、田中は報道や日常風景を切り取った写真などを元に、鉄粉を使った版で表現する版画作品を手がける。紙や石こうに写し取った作品は時間や場所などが不明確になり、記憶の曖昧さと重なる。
活動する時代や技法は異なるものの、それぞれの作品には共通した視点も浮かび上がる。鎌田学芸員は「3人の目に映った『情景』が、それぞれの表現方法でどのように再現されているか、注目してほしい」と話す。
28日まで。月曜休館。無料。午前10時~午後7時(最終入場は30分前)。問い合わせは同館電話0466(30)1816。
2022年8月18日公開 | 2022年8月18日神奈川新聞掲載
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