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シネマ散歩
映画「夜明けまでバス停で」 誰しもが置かれるかもしれない「社会的孤立」

8日からムービルなどで上映。
2020年11月未明、東京・渋谷区内のバス停で一夜を明かしていた女性が、男に頭を殴られ死亡した。女性は路上生活をしていたとみられる。事件に着想を得て作られた本作は、理不尽に社会とのつながりを絶たれた主人公が、助けを求められず苦境に陥るさまを描いている。
アトリエで自作のアクセサリーを売る北林三知子(板谷由夏=写真)は、居酒屋で住み込みのパートとしても働いている。元夫の借金返済に追われる中、新型コロナウイルスが猛威を振るう。真っ先に解雇の対象となり、仕事と住まいを失った。コロナ禍で職探しは難航し、寝泊まりがかなう漫画喫茶も閉店。わずかな明かりがともるバスの停留所に流れ着く。
映画は貧困、差別、非正規労働者の搾取といったこの国の暗部を真正面から描写する。弱い立場に追いやられる人々を自己責任と切り捨てる世の風潮にこそ、政治と社会は目を向けるべき─。全編を通して怒りにも似た叫びを突き付ける。あすを迎える気力を失い「目が覚めないように」と祈る路上生活者の言葉が重い。
頼れる家族もなく、街をさまよう三知子。その背後で、大型ビジョンに映る就任当時の菅義偉前首相が「まずは自分でやってみる」と「自助」を強調するシーンがある。暮らしが脅かされる中で語られる「目指す社会像」が、むなしく響いた。
監督/高橋伴明
製作/日本、1時間31分
2022年10月07日公開 | 2022年10月07日神奈川新聞掲載
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