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ペドロ&カプリシャス◆五番街のマリーへ

作詞/阿久悠・作曲/都倉俊一
作詞/阿久悠・作曲/都倉俊一

横浜港発の無国籍ソング

 ぼくの中で歌謡曲の魅力は、基本的にはすべて「無国籍感」に尽きる気がしています。それはたとえ「神田川」であれ、擦りガラス越しの影絵の世界。少年時代に、ラジオで聴き始めた曲たちに明滅するのは、大人になることへの恍惚(こうこつ)と不安でありました。つまり全ては、遠い国の出来事であり、1編の映画であってほしい。そんな極上のドラマを、地肌にふんわりと咲かせてくれるような作品として、「五番街のマリーへ」(1973年・昭和48年)が浮かびました。

 針を落としてイントロが流れるや、49年前の晩秋に発売されたとは思えない、エレガントな芳香が午後の部屋を包みます。この曲が出来上がった経緯を知れば、まさに“産地直送”、その色あせない鮮烈さも大いにうなずけました。無国籍ソングながら、その出発は横浜港です。

 73年8月、“ろまん船”と名付けられた大型客船さくら丸は、女性ばかり700人を乗せて出航。絵に描いたような「ひと夏の思い出」です。そして実際にこの船旅の趣旨は“描かせること”にありました。“船上で創作しよう”をスローガンに、「洋上大学」として超一流の講師陣たちも乗せていたのです。三木たかしさん、中村泰士さん、井上大輔さん、森田公一さん、都倉俊一さん…そう、当時の“今をときめく”メロディーメーカーたち。

 企画したのは、あまたの旋律をつかさどる言霊の志士たる、作詞家の阿久悠さんです。連日「作詞教室」「作曲教室」が開かれるなか、こんな布陣で、生身の歌が紡がれないわけがありません。のちにピンクレディーで日本中を扇動する阿久─都倉コンビは、この船上国家でも海賊となることを密約していたのでしょうか。すでに前年、山本リンダさんを「どうにもとまらない」と豹変(ひょうへん)させ、列島改造の社会情勢をも巻き込み、じゅうぶんに“人を喰(く)った”者同士です。


横浜市西区、横浜駅西口の五番街(1980年、神奈川新聞社撮影)※本文とは関係ありません
横浜市西区、横浜駅西口の五番街(1980年、神奈川新聞社撮影)※本文とは関係ありません

 とはいえ、ここはあくまで“ろまん船”。旅というのは、過去の道程をにじませる作用があるものと思われ、阿久さんは著書の中で、
“マリーという娘と/遠い昔に暮らし/悲しい思いをさせた/それだけが気がかり”のくだりを、この歌が長く愛され続けるポイントとして取り上げ、「自分の若い日の、貧しく、実りのない、傷だらけの愛と重なることがあって、ふと、この歌の一節のような思いになるのであろうと思う」と自己分析。ただし、「今が不幸なら何か埋め合わせしなければならないが、幸福そうな様子が感じ取れたら、声もかけずに帰るという『男女道』も弁(わきま)えていたのである」という阿久流恋愛哲学も忘れずに。

 そして、「月の照る日本海を走るロマンの船『さくら丸』のサロンで、出来上がったばかりの曲を作曲者のピアノ演奏で、乗客の女性たちと歌った感激は、今も忘れられない」と著書に結んでいます。航海は、美しき後悔となりました…。


絵/タブレット純
絵/タブレット純

 ところで、横浜の「五番街」といえば、横浜駅相鉄口を出て連なる、昭和な雰囲気漂う界隈(かいわい)もまた思い起こされます。入り口からいきなり、路上で立ち食いそばをすする人たち。ここもまた、ある意味エトランゼ。寒くなると、あそこの国でしゃがみこみ、またきつねをはふはふと掬(すく)いたくなります~。

2022年11月14日公開 | 2022年11月13日神奈川新聞掲載

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