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シネマ散歩
この痛み、直視せよ 映画「あのこと」

kino cinema横浜みなとみらいなどで上映中。
見終わった後にしばしぼうぜんとする。余韻に浸るといった表現では物足りない。望まない妊娠をした大学生の過酷な闘いを描く本作は、自分の体を自らの手でコントロールできない理不尽を容赦なく映し出す。
人工妊娠中絶が違法だった1960年代のフランス。貧しい労働者階級に生まれたアンヌ(アナマリア・バルトロメイ=写真左)は卓越した知性と努力で大学に進学した。家族の期待に応えるように優秀な成績を収め、教師になる夢に近づいていた。
ところが、大切な試験を前に妊娠が発覚。未来が閉ざされる不安にさいなまれながら、血を吐く思いで救いの道を求める。
「あのこと」とは「中絶」を指す。この言葉を口にすることさえも許されない中、医師は「女性には選択権がない」と言い切り、おなかの子の父親はまるで人ごとのように振る舞う。
妊娠が判明した時の衝撃、じわじわ悪化する体調と膨らむ腹、そこから逃れられない恐怖と焦燥。バルトロメイは激しく揺れ惑う孤独な主人公を迫真の演技で表現する。
気が付けば共に呼吸が浅くなるほど作品に没入した。
今年のノーベル文学賞受賞者、アニー・エルノーの実体験を基にした小説が原作。映画が切実さを持って迫るのは、今なおアンヌと同じ痛みにあえぐ女性たちが各地にいるからだろう。目をそらすことなく、彼女の叫びに向き合いたい。
監督/オードレイ・ディバン
製作/フランス、1時間40分
2022年12月2日公開 | 2022年12月2日神奈川新聞掲載
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