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江之浦の海から着想 新作能「媽祖(まそ)」、小田原で上演へ
- 小田原三の丸ホール(小田原市)

小田原市の江之浦の海から着想を得た新作能「媽祖(まそ)」が1月15日、小田原三の丸ホール(同市)で上演される。媽祖は東アジアで信仰されている道教の神で、実在した黙娘(もくじょう)という女性が神になったとされる。
企画、演出を手がけ、自らも出演する観世流シテ方能楽師・片山九郎右衛門(くろうえもん)(57)は、黙娘が人々の救済に尽力したことから「マイノリティーとの関わりを軸に描きたいとの思いがある」と語った。
黙娘は、ある年齢まで言葉を発することができなかったなど、さまざまな伝説が残されている。共通するのは、備えていた不思議な力で父の海難事故を予知したり、人々を救済したりしたことだ。父、あるいは兄の遭難を防げなかったことを嘆いて海に身を投げたという。死後は神格化され、航海や漁業の守り神として信仰を集めてきた。
片山は「自身も俗世に首まで漬かりながら、すがってくる人と同じ目線で人々を救ってきた黙娘。その黙娘が神となった媽祖は、マイノリティーの気持ちに寄り添うことができる神だと思う」と考えている。
媽祖との出合いは20年前にさかのぼる。台湾の友人に能を教えた際、「媽祖を能にしたらどうか」との提案があった。新型コロナウイルス禍で公演ができなくなり、全く舞台に立てなかった時期に、それが「ふっと降りてきた」という。
「当時は、人とのつながりを絶やしたくない、という気持ちがあった。媽祖は物言えぬ人たちの言葉を紡いでくれる神様で、人とのつながりを結んでくれる、という思いもあった」と片山。新作能の制作に突き動かされていったという。

実は、2018年に同市の文化施設「江之浦測候所」を初めて訪れ、海にせり出したガラスの舞台に立った時、黙娘一行が船出する場面が思い浮かんだという。「媽祖を能に、という思いは、自分の中にずっとあったのかもしれない」と振り返る。
かねて交流のあった作家の玉岡かおるに台本を依頼。天平時代の日本を舞台に、諸国に百万塔を納めるために天皇に遣わされた大伴家持が、住吉の社で巫女(みこ)の黙娘に出会う─、という物語を構築した。今年4月には京都での初演にこぎ着けた。
今回は趣を変え、最初にインスピレーションを受けた通り、江之浦を舞台とした物語になる予定だ。「黙娘は、私の中では江之浦で生まれた女性」だという。
写真家の鈴木心(しん)が同測候所で新たに撮影した映像を舞台上に投影するなど「通常の能の舞台ではやらないことが起こる」と明かす。同測候所を構想から手がけた現代美術家の杉本博司が、映像監修に当たる。
明神として狂言師の野村萬斎、家持に宝生欣哉が出演し、現代の能楽界、狂言界をけん引する実力者が集う場でもある。片山は「江之浦で演じているかのように、見る人に感じてもらえたら」と抱負を語った。
公演は午後2時開演。全席指定でSS席1万3千円ほか。問い合わせは同ホール、電話0465(20)4152。
2022年12月7日公開 | 2022年12月7日神奈川新聞掲載
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