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文化部員の体験記
校長室の「不思議な絵」、実は巨匠・片岡球子作 横浜の小学校で出前授業
- 横浜市立大岡小学校(同市南区)

ダイナミックな構図と大胆な色使いで知られる日本画の巨匠・片岡球子(たまこ)(1905~2008年)。横浜市立大岡小学校(同市南区、馬渡照代校長)では、かつて片岡が同校の教壇に立った縁で、手がけた作品2点が所蔵されている。
1点は22年に同校が創立150周年を迎えた記念に関係者から贈られたものだ。昨年12月には“本物”の作品も参考にした授業も行われ、子どもたちが片岡について学んだ。
片岡は札幌市出身。画家を志し女子美術専門学校(現・女子美術大学)を卒業後、大岡小の前身に当たる横浜市立大岡尋常高等小学校の教員になった。約30年間、同校で教職に携わりながら制作を続け、独自の表現を確立した。
作品2点は校長室に飾られている。1点は「飼育」。片岡が同校を退職する前年の1954年に、飼育小屋で鶏の世話をする教え子たちをモデルに描いた。子どもたちの個性をいきいきと表現しようとスケッチを重ね描き上げた。

もう1点は、深紅のボタンを描いた作品。同校で片岡と同時期に勤務していた大沼敬吉さん(故人)が所蔵していたもので、昨年6月に息子の亮さん(90)=東京都世田谷区=から寄贈された。「父親(敬吉さん)が副校長まで務めた思い出深い大岡小にある方が、球子先生のためにもなる」と考えたという。
亮さんの長男・泰之さん(63)によると、作品は祖父の敬吉さんが他校に移るときに片岡から記念に贈られたもの。「当時中学生だった父によると、戦災で焼け出され、家族で学校の理科室で寝起きしていた時期があった。隣が図工室で、扉を開けると球子先生が朝から晩まで絵を描いていて、親しくなった」という。片岡らしい力強い筆致で表現したボタンは、学校の中庭に咲いていた花がモチーフ。泰之さんは「大岡小の創立150周年のタイミングで寄贈でき、父は喜んでいます」と笑顔で話す。
この2作品も参考にした出前授業が、同校で昨年12月に行われた。

「面構(つらがまえ) 片岡球子展 たちむかう絵画」を開催中のそごう美術館(同市西区)から、主任学芸員の大塚保子さんが来校。図工の授業で「和」をテーマに日本独自のデザインや片岡について調べ、校長室の作品を鑑賞した6年生90人が授業に臨んだ。
大塚さんは、片岡の経歴や日本画の素材、制作方法について語り、片岡のライフワークにもなった代表作「面構」シリーズを中心に解説した。
「面構」は還暦を過ぎた片岡が、戦国武将や禅僧、浮世絵師らに共感を寄せた歴史上の人物を描いたシリーズ。「顔にはその人のすべてが表れる。そしてその魂までも表現したい」と取り組み、2004年までの38年間に44点を描いた。
大塚さんは足利尊氏、義政、義満や葛飾北斎らを描いた作品をプロジェクターで大きく映し出しながら、大胆な構図や色彩、ユーモアあふれる表情などについて説明。「描かれた人物の目に注目して鑑賞して」と、迫力に満ちた作品の魅力を解いた。また、「飼育」について、絵画と教師の両立に多忙な日々ではあっても「一生懸命に子どもに教えることがいい絵につながる」という片岡の言葉で作家の思いを伝えた。
児童らは大塚さんの言葉に熱心に耳を傾けた。高野柚希さん(12)は「面構シリーズは描かれた顔に、その人物の魂や敬意を表情や色彩から表していることを知り、すごいなと思った」と笑顔。河辺大誠さん(12)は「日本画についてよく分かった。作家が作品に込めた強い思いも知ることができた」と目を輝かせた。5、6年生の図工を担当する井口さと子教務主任は「校長室にある『不思議な絵』という感覚だったが、専門家から話を聞き、子どもたちは作品により愛着が湧いたようだ」と話した。

「面構」展ではシリーズ42点と初公開の小下図のほか、同校が所蔵する2点を特別展示する。29日まで。無休。一般1400円ほか。
問い合わせはそごう美術館、電話045(465)5515。
2023年1月10日公開 | 2023年1月8日神奈川新聞掲載
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