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伊東潤が描く〝最新版〟大坂の陣 「一睡の夢 家康と淀殿」

歴史小説家の伊東潤が、大坂の陣に焦点を当てた「一睡の夢 家康と淀殿」(幻冬舎)を発表した。徳川家康が自分の時代を切り開いた、歴史の大きなターニングポイントをテーマにした1作。2022年にデビュー15周年を迎えた伊東は「62歳の自分にとって、作家としての折り返し地点。歴史小説家であれば必須のモチーフに取り組みました」と思いを語る。
14年に発表した「峠越え」では、本能寺の変を受けた若き家康の逃避行「伊賀越え」など、危機を乗り越えていく姿に焦点を当てたが、今作では家康が自らの世を作り上げていく過程をドラマチックに描く。
「一睡の夢」で書き込んだのは、豊臣秀吉の息子・秀頼に脅威を感じる家康が、優秀なブレーンを使いながら豊臣家と淀殿を追い詰めていく緻密な過程だ。2代将軍である息子・秀忠の頼りなさに不安を感じる家康と、秀頼の復権に向けて焦る淀殿(茶々)という二つの視点から、次世代への継承の難しさというテーマも浮かび上がらせた。
「家康は、信長や秀吉がなぜ継承に失敗したかを分析し、慎重に計画を実行していった。2人と比べて凡庸な家康が忍耐強く乱世を生き抜いてきたことこそが、今でも多くの人々が家康にひかれる要因ではないでしょうか」。経営コンサルタントとして活躍していた経験から、家康が榊原康政や本多忠勝ら「耳が痛いことを指摘する人間」を側近にしたことの重要性についても指摘。「トップが気の合う仲間ばかりを重用すると、国も企業も没落する。家康から学ぶべき点は多いと思います」と語る。

「豊臣家を滅ぼした悪女」と見なされてきた淀殿の実像を描くことも目的の一つだった。「頼りになる忠臣も少なく、なすすべがなかったという部分が大きい。武家の娘としての誇りを大切にしていた女性で、悪女という見方は必ずしも正しくないのではないでしょうか」
家康や淀殿の苦悩、大坂の陣のプロセスに迫るため、最新の研究資料を読み込んだ。「大坂の陣を描いた作品としては司馬遼太郎先生の『城塞(じょうさい)』が有名ですが、その後新たに分かった事実も多い。おこがましいかもしれませんが、最新の研究成果を反映したものに書き換えなければならないという使命感もありました」
歴史的な出来事を背景に、架空の人物が華やかに活躍する「歴史小説」が注目を浴びる中、実在の人物がどう政治を動かしていったかを深掘りする「ど真ん中」の作品にこだわる。目標は、古代から近現代史までの通史を小説で書くことだ。
「タフな作業ですが、歴史には大きな学びがあり、誰かがやらなければいけないこと。長く読み継がれるものを書いていきたいですね」
2023年1月11日公開 | 2023年1月8日神奈川新聞掲載
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