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22日に映画鑑賞会
森下典子さんの「日日是好日」、第1回「日伊ことばの架け橋賞」受賞

イタリア国内に日本の近代文学を広めることを目的にした「日伊ことばの架け橋賞」に、エッセイストの森下典子が手がけた「日日是好日(にちにちこれこうじつ) 『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」が選ばれた。
森下が長年親しんでいる茶道を柱に、日々のあれこれをつづった1冊が国外でも評価を受けた。昨年12月、ローマで行われた授賞式に出席した森下は「これまで賞とは無縁だったが、大好きな国からいただけてうれしい」と声をはずませる。
同書は森下が茶道を続ける中で得た気づきや、季節による自然の変化を味わう喜びをつづった作品。生き方に不安を感じた時や、失恋や父の死という悲しみにうちひしがれた時、形式に疑問を持ちながらも続けてきたお茶が、心のよりどころとなったことなども記されている。
2002年に発表され累計68万部を突破。18年には黒木華、樹木希林らが出演した映画も公開された。
「日伊ことばの架け橋賞」は22年に創設。過去2年間にイタリアで翻訳された日本の現代文学作品30点以上を対象に、研究者や作家らが選考を行った。「日日─」は第1回の受賞作になる。
20年に発行されたイタリア語版の翻訳を手がけたラウラ・テスタベルデは、茶道にまつわる単語を日本語のまま表記して説明を付記するなど、日本文化や主人公の心情を丁寧に伝えるために心を砕いた。「茶道について外国の方が内容を理解し翻訳することは大変な苦労だったと思う。翻訳者には心からの敬意と感謝を伝えました」と語る森下。「心の動きを言語化するのは雲や風をつかんで手渡すような作業で、私自身も苦心したことを思い出しました」

受賞理由には、同書が茶道によって人が成長する「道」を語りつつ、社会の変遷も伝えていることが挙げられた。1970年代以降、日本社会や女性の生き方が変わっていった様子が描かれているが、イタリアでも同じような変化があったという。
「日日─」では、森下と同じタイミングでお茶を習い始めた同い年のいとこ「ミチコ」が、結婚して仕事を辞め家庭に入る一方で、森下はフリーライターとしての道を選ぶ。「結果的に、時代の端境期を生きた2人の女性の人生を描くことになった。女性が一生働くことが当たり前になりつつある時代でしたが、迷った時もお茶が支えになってくれました」
イタリア映画の名作「道」(フェデリコ・フェリーニ監督)のことも、茶道のように何度も繰り返す中で少しずつ理解が深まるものとして取り上げている。「見るたびに新たな発見があり、心打たれ、印象が変わっていく作品。茶道も長年続けていると、最初はわからなかったしぐさや道具の配置の意味が納得できる瞬間が来るんです」。
季節に即した、最適で美しいしつらえで客人をもてなす茶道には、いつも新たな発見や感動があるという。「効率の良さ」ばかりが求められる時代だが「手間と時間をかけて何かを味わうことも人間には必要なこと。お金にかえられない、感性を育むゆとりを持っていたいですね」
22日にかながわアートホール(横浜市保土ケ谷区)で映画「日日是好日」の鑑賞会が開催される。午前10時半と午後1時半の2回開催で、料金はそれぞれ800円と千円。午後1時半からの上映の後に、森下が作品についてのトークを行う。チケットは同ホール、電話045(341)7657。
2023年1月17日公開 | 2023年1月16日神奈川新聞掲載
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