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　２７日から横浜ブルク１３などで上映。

　架空の島を舞台に繰り広げられる、奇妙で悲劇的な人間ドラマ。島を覆う黒い雲と冷たく湿った風が、呪いのように観客の不安をかきたてる。小さな共同体の中で生まれる愛憎は住民たちを追い詰め、明るさと郷愁が魅力のアイリッシュ音楽すら不気味に響く。

　アイルランド本島で内戦が激化する１９２３年、離島のイニシェリン島ではのどかな日常が続いていた。牧畜を営むパードリック（コリン・ファレル＝写真左）の毎日の楽しみは、親友のコルム（ブレンダン・グリーソン＝同右）とパブでビールを飲むこと。

　しかしある日突然、コルムはパードリックに絶交を告げる。フィドルの演奏家でもある彼は、作曲と演奏活動に集中したいと語るが、パードリックはあまりにも一方的な態度に納得がいかない。あの手この手で関係修復をはかろうとするが、コルムは「これ以上自分を煩わせるようなら、自分の指を１本ずつ切り落とす」と恐ろしい通告をつきつける。

　静かな狂気をはらんだ俳優陣の演技が作品全体に緊張感をもたらしており、濃密な心理劇から目が離せなくなる。

　原題にある「ｂａｎｓｈｅｅｓ（バンシー＝精霊）」とは、アイルランドやスコットランドの伝承に登場する「死を予知して泣き叫ぶ妖精」のこと。不吉な予言をする老婦人や、澄んだ瞳が印象的な動物たちが神秘的な世界観を作り出している。

監督・脚本／マーティン・マクドナー
製作／英国、１時間５４分

2023年1月26日公開　｜　2023年1月27日神奈川新聞掲載

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