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結城真一郎さんに聞く 「ダメ大学生」を本気にさせた「辻堂ショック」

2019年に「名もなき星の哀歌」でデビューし、「プロジェクト・インソムニア」「救国ゲーム」など特殊設定ミステリーを次々と発表。大ヒット中の短編集「#真相をお話しします」が23年本屋大賞にノミネートされるなど、熱い注目を集めるミステリー作家の一人だ。
東京大学の卒業生や現役東大生作家によるミステリー作品のアンソロジー「東大に名探偵はいない」には「いちおう東大です」と題した作品を執筆した。
「新居は東大が見える場所がいい」と不可解な条件を出した美しい妻に、東大卒業生の主人公が追い詰められていくスリリングな物語。一般的に「頭のいいエリート」というイメージを抱かれてしまう、東大生ならではの「学歴コンプレックス」をモチーフにした。「東大生は、いわゆる『ガリ勉』キャラクターとして扱われがちで、自分自身もその属性だけに注目されることに違和感はあった。他の大学とは違った、マイナスのニュアンスで語られかねない大学名ではあるかもしれません」と分析する。

現役時代は典型的な「ダメ大学生」。「アルバイトや飲み会に明け暮れる毎日でした」と苦笑いするが、法学部の同級生だった辻堂ゆめが在学中に作家デビューを果たしたことに大きな衝撃を受けたという。「高校時代に書いた作文が同級生たちに大絶賛された体験があって、いずれは小説家になろうと思いつつ何もしていなかった。『辻堂ショック』があったことで鼻っ柱を折られ、本気で創作を始めたんです」。同じく法学部に在籍していた新川帆立も辻堂の存在に刺激され、21年に「元彼の遺言状」で作家デビューを果たすことになる。
「東大に名探偵はいない」には辻堂や新川の作品も収録されており、それぞれの持ち味や東大への思いが反映されている。「2人とは同世代でもあるし、文芸の世界が衰退しないよう、一緒に盛り上げていく同志だと思っています」
憧れるのは宮部みゆきや東野圭吾ら、ミステリー小説界の巨匠たちだが「まずは目の前の仕事を着実に仕上げていくことが課題」。現在は別の仕事と平行しながら執筆に取り組むが、原稿の依頼が増えたことで負荷も大きくなってきた。「この壁を越えられれば、一歩進んだステージに登れるはず。とにかく読んでくれた人が驚き、面白いと思ってくれるものを作り続けていきたいですね」

ゆうき・しんいちろう
作家。1991年、横浜市戸塚区出身。東京大学法学部卒業。2018年「名もなき星の哀歌」で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、19年に同作でデビュー。20年「プロジェクト・インソムニア」を発表。21年「#拡散希望」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同年刊行した「救国ゲーム」は第22回本格ミステリ大賞の候補作に選出された。
記者の一言
小学生から中学生までを横浜市戸塚区で過ごした結城さん。「森の中に秘密基地を造って遊ぶようなやんちゃ小僧。近くの牧場のアイスクリームが大好きでしたね」と懐かしむ。地元の書店・有隣堂で購入するのは「マンガばかりでした」と笑うが、読書に没頭した体験が執筆の原動力の一つだという。「『バトル・ロワイアル』や『ゴールデンスランバー』は試験中にも関わらず徹夜で読みふけった。小説にはそれぐらい強い魅力があると信じているし、今の若者にもその楽しさを伝えたいです」
2023年3月13日公開 | 2023年3月12日神奈川新聞掲載
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