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フランス映画
映画「午前4時にパリの夜は明ける」 ミカエル・アース監督「再生の物語、見届けて」

1980年代のパリを生きる家族の姿を捉えたフランス映画「午前4時にパリの夜は明ける」が、21日からkino cinema横浜みなとみらい(横浜市西区)などで上映される。喪失を抱えた主人公たちの再生の物語。脚本も手がけたミカエル・アース監督は「希望を感じられる作品を目指した」と語る。
映画は熱気に包まれたパリ市民の映像で幕を開ける。81年5月、「変革と希望」を掲げた社会党のミッテランが大統領に就任。3代続いた保守政権に終止符が打たれ、新たな時代が始まるかもしれないとの高揚感が街を覆っていた。
3年後。主人公のエリザベート(シャルロット・ゲンズブール)が、高揚とは対照的な憂いを帯びた表情を浮かべる。夫の裏切りを受け心身ともに傷つき、離別を決意。自身と2人の子どもの生活費を稼がねばと、不安と焦りにさいなまれていた。そんな中、いつも聴いていた深夜放送のラジオ番組のアシスタント職に就く。そこで孤独な少女タルラ(ノエ・アビタ)と出会い、一歩ずつ前へと進んでいく。

前作「アマンダと僕」(2018年)で、テロの被害者遺族となった少女と叔父の姿から、喪失の悲しみに暮れる人たちに寄り添ったアース監督。今作でも「喪失を経て徐々に再生に向かう家族の姿を描きたかった」と話す。
劇的な展開はない。だからこそ、彼らの心情がすっと胸に染み入る。「主題に支配されない映画が好き」と明かすアース監督は、人生そのものを映し出すことに重きを置く。「私は作品に具体的なメッセージを込めていない。むしろ、登場人物の社会との関係性を浮き彫りにしたいと思っているんです」
政治の変革がもたらした熱気に加え、1980年代のパリの色彩やファッション、音楽など、映画はこの時代特有の空気を観客に体感させる。エリザベートをはじめ、眠れない夜を過ごす人々を支える役割を併せ持つ深夜ラジオは、アース監督の幼少期に実際に放送されていた番組がモデル。家庭を知らず、自分が幸せになることを許せないタルラを家族の輪に招き入れる場面を含め、孤独な人をつなぎ留めるまなざしが全編を通して表現される。
深夜ラジオのように、ゆったりと静謐(せいひつ)な時間が流れる本作。希望をもって受け止めてほしいとアース監督は言う。「つらい経験や生きる上での困難を描くのは避けて通れない。それでも、ある種の心地よさを感じ、最終的には未来への希望を感じてもらえる作品にしたかった。自分の居場所のような感覚で再生の物語を見届けてほしい」
2023年4月20日公開 | 2023年4月7日神奈川新聞掲載
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