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上野通明さんに聞く バッハに寄せる思い「生涯ずっとそばに」

多くのチェリストが特別な思いを寄せるバッハの無伴奏チェロ組曲。県立音楽堂で5月、自身の演奏会では初めて全6曲を通しで披露する。
「すっと心に入ってくる感じ。いろんなことを連想させられるのがすごいなと思うし、音の色を感じながら弾くこともある」と曲の魅力を語る。
「ずっと自分のそばにいて、成長を見てきてくれた曲」と身近に感じている。それもそのはず、初めて同曲を弾いたのは5歳だというから驚きだ。
4歳の時、世界的チェリストのヨーヨー・マさんが同組曲を演奏する映像を見て、チェロを習いたいと両親に訴えた。だが、本気にされず、やっと楽器を手にできたのは1年後。「『いつになったら習わせてくれるんですか』と、手紙を書いてお願いしていました」と振り返る。

チェロを習い始めて半年後、家族でスペインへ引っ越した。「バルセロナで習うことになった先生に、バッハをやりたいと言ったら、にやっとしながらもやらせてくれて。うまくは弾けなかったけれど、すごく楽しかったですね」
以来、さまざまな師の元で勉強しながら、自分のバッハを奏で続けてきた。
「5年前の自分の録音を聴くと、違うなと感じる。10年、20年先となるとだいぶ変わっていくのではないか。生涯ずっとそばに置いておきたい素晴らしい曲」と真摯しんしに向き合う。
2021年ジュネーブ国際コンクール・チェロ部門で日本人初の優勝を果たした際は、演奏を聴いたマさんが「これで引退できる」と軽口を交えて絶賛したという。チェロを始めるきっかけとなった憧れの人のそんな発言に、「びっくりしましたし、演奏を聴いてくれたことがうれしかったです」と笑う。
ジャンルを超えたコラボレーションにも興味を抱く。「普段の勉強や演奏とは違う、新しい風が吹いてくる」と、ベルギーでは、コンテンポラリーダンスや現代アートとコラボした演奏を披露した。
「音楽に限らず、『こうでなきゃいけない』ではなく、『これもありだな』と考えることが多い」。柔軟な思考で「他の人が挑戦していない、新しいことにチャレンジしたい」と抱負を語った。

うえの・みちあき
チェリスト。1995年パラグアイ生まれ。2021年ジュネーブ国際コンクール・チェロ部門優勝をはじめ、国際的なコンクールで数々の優勝経験をもつ。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースを経て、15年からドイツのデュッセルドルフ音楽大学、21年からベルギーのエリザベート音楽院に在籍。※5月13日、県立音楽堂(横浜市西区)で「バッハ無伴奏」全曲演奏会。チケット完売。8月11日、同館で「奇跡のチェロ・アンサンブル」出演。午後2時開演。全席指定6千円。問い合わせは神奈川芸術協会、電話045(453)5080(午前10時~午後6時、土曜は午後3時まで。日曜・祝日休)。
記者の一言
残念ながら、バッハ無伴奏全曲演奏会のチケットは売り切れ。人気と期待の高さがうかがわれる。ドイツの教会で録音された全曲収録のCDもあるのでお薦めしたい。8月の「奇跡のチェロ・アンサンブル」は、上野さんをはじめ、今をときめく6人の実力派チェリストが出演する豪華な演奏会だ。「毎年のように一緒に弾かせていただく機会をもらい、刺激を受けています」と上野さん。それぞれが異なる演奏スタイルだが、共に一つの音楽をつくりあげていくのが楽しいという。音楽教室の仲間と弦楽アンサンブルを組んでいる記者も同感だ。元はバイオリン曲のサンサーンス「序奏とロンド・カプリチオーソ」は「全員にとってチャレンジ」という難曲。さぞ素晴らしいだろうな、とわくわくしている。
2023年4月9日公開 | 2023年4月9日神奈川新聞掲載
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