推し
「神奈川の本屋さんイチ推しの1冊」番外編
神奈川新聞記者イチ推しの1冊 「今昔奈良物語集」

日本文学の名作を現代の奈良を舞台に語り直したパロディー小説集。
ぼったくりバーで友人を人質に置き、無職の男性が親のタンス預金を取りに走る「走れ黒須」(走れメロス)、駅前で下手なギターを弾くニートの若者が不思議な出来事に巻き込まれる「耳成浩一の話」(耳無(みみなし)芳一の話)など、おなじみの作品がポンコツな登場人物たちによってポップによみがえる。「ガチの昔。竹取の翁といふ陽キャありけり」で始まる「ファンキー竹取物語」は2021年の「はてなインターネット文学賞」で大賞を受賞している。
脱力して楽しめる作品が多いが、「どんくさい」と侮られている銀行員が実は隠れてシステムのメンテナンスを行い、銀行を支えていたという「どん銀行員」(ごんぎつね)には目頭が熱くなってしまった。どの話もあらすじを知っているからこそ、作者のアレンジの技量を楽しめると同時に、時を超えても変わらない、人間のどうしようもなさやいじらしさを感じさせてくれる。
奈良弁といえば、雄略天皇が民間人を「おうちはどこなん?」とナンパしたり、肌見せコーデでキメた織り姫が「彦星(ひこぼし)しか勝たん」と浮かれたりしている、大胆な意訳を施した「愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集(1)」(佐々木良、万葉社、千円)も話題の一冊だ。
「神奈川しか勝たん」と思っているのであまり他の都道府県をうらやんだ事はないが、方言を生かした面白い作品が「爆誕」している奈良県に少し嫉妬してしまう。

神奈川新聞社
文化部・太田 有紀
「奥の細道」や「枕草子」をアラビア語に翻訳しカリグラフィー化するという、こじらせた趣味にはまっています。月明かりや星を頼りに砂漠を行き交った人たちも、旅を人生に重ねたり、夜明けの美しさに涙したりしていたのではないかと想像すると楽しいです。
2023年5月1日公開 | 2023年4月30日神奈川新聞掲載
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