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色彩の極限美を体感 平塚市美術館で展覧会「モノクロームの表現」

伊藤彬の作品が並ぶ一角=平塚市美術館
伊藤彬の作品が並ぶ一角=平塚市美術館

 白と黒の単色で描かれた作品を集めた展覧会「モノクロームの表現」が、平塚市美術館(同市西八幡)で開催中だ。同館の所蔵作品から、単色だけを使いながら豊かな表現や微妙な色彩の美しさを描き出した8人の30点を展示している。作家それぞれが追求したモノクロームの世界に触れることができる。

 展示室には、鉛筆や墨、木炭、シルバーポイントなどを使いグラデーションを駆使した作品が並ぶ。同じ「モノクローム」でも、素材や技法で全く異なる画面が作り出される面白さがある。

 秦野市にアトリエを構える日本画家の伊藤彬は、木炭と墨を併用する独自の技法で、山水草木をモチーフに人間の精神性や宗教観を投影した作品を制作する。会場に並ぶ「山水─うつろふ1」「同2」は2作品で一対になる、自然との対峙(たいじ)から生まれた作品。1995年から取り組む「山水」シリーズの一環だ。

 画面の白を基調に、勢いのある清流や生命力を感じさせる草木が、それぞれ4枚のパネルに描かれている。同館の家田奈穂学芸員は「伊藤は木炭や墨を巧みに使い、多様な白黒を表現する。木炭のざらつきや、なめらかな墨の特徴を踏まえた微妙な黒のグラデーションは作家の内面の揺らぎや移ろいを映し出している」と解説する。


「和紙に墨を垂らすと自然と流れ出し、にじむ。墨の動きが見せる濃淡を間近で見てほしい」と話す三瀬夏之介=平塚市美術館
「和紙に墨を垂らすと自然と流れ出し、にじむ。墨の動きが見せる濃淡を間近で見てほしい」と話す三瀬夏之介=平塚市美術館

 ひときわ目を引くのは、日本画家の三瀬夏之介が手がけた「空虚五度」。高さ約3メートル、長さ約15メートルの大作だ。わき上がる雲が巨大な建造物を覆い、そこを目がけて飛行機や気球などが飛ぶ。中央の雲の切れ間には山々が連なるなど、自然と文明が対比するように描かれている。

 9枚のパネルをつなぎ合わせた大画面からは、不安定な情景が浮かび上がる。三瀬は「画面左部分は和紙そのもので何も手を入れず、右部分は墨一色で塗り込んだ」と説明。左から右に画面を追うと、白から灰色、漆黒へと色調が変化し、モチーフが物語のように流れていく。

 山形県を拠点に活動する三瀬は、東日本大震災が発生した2011年末、山形交響楽団が演奏するベートーベンの「第九」を聴いて感銘を受け、この作品を制作した。テーマにした「空虚五度」は、長調でも短調でもない不安定な和音のこと。「無垢(むく)の空虚五度から人々の文明が生まれ、そして暗闇の混沌(こんとん)へ戻っていく世界をイメージした」という。


木下晋の作品。左から「祈りの塔」(2011年)、「無心」(2012年)=平塚市美術館
木下晋の作品。左から「祈りの塔」(2011年)、「無心」(2012年)=平塚市美術館

 鉛筆画の木下晋は、10Hから10Bまでの鉛筆を駆使し、畳1畳と同じ大きさの紙に人の顔や手を克明に描く。年齢を重ねた顔に刻まれたしわの一本一本、肌質まで感じられる精緻な画面は人間の命や魂に迫っているようだ。

 色彩の世界から移行したり、ごく一時期だけ試みたり、「モノクローム」との向き合い方は作家によって異なる。だが、色彩を極限までしぼった表現は、いずれも独特の美しさと豊かな作品世界を展開している。同館は「単色で表現される鮮やかな世界を体感してほしい」と来場を呼びかける。

 28日まで。月曜休み。一般200円ほか。20日午後2時から、担当学芸員によるギャラリートークが行われる。問い合わせは同館、電話0463(35)2111。

2023年5月5日公開 | 2023年5月1日神奈川新聞掲載

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