推し
冒険研究所書店
神奈川の本屋さんイチ推しの1冊 「ウラオモテヤマネコ」

ドイツで毎年開催される「世界で最も美しい本コンクール」において、2018年に銀賞受賞した作家、井上奈奈の最新絵本が「ウラオモテヤマネコ」だ。15年に出版された絵本が装丁を新たに復刊した。
西表島のイリオモテヤマネコをもじったタイトルだが、その名の通り裏と表の世界を行き来しながら何万年も生きる不思議な猫と、少女の旅を描く。
絵本で語られる裏と表、それは、生と死や主体と客体の分断とも言い換えられる。生命の本質とは、分断ではなくあらゆるものの循環と、そのつながりにある。ウラオモテヤマネコは少女に語る。
「表の世界から見れば、表が裏で裏は表なのだから」
私には、その言葉は生が死を生み、死が生を生むと読み替えられる。本来は裏も表もない、分断など存在せず、全てが交わりながらつながっているのだと。
昨夏、私は井上奈奈との共著により、絵本「PIHOTEK(ピヒュッティ) 北極を風と歩く」を出版したが「ウラオモテヤマネコ」の存在が、共に絵本を制作する理由の一つとなっている。命の「あわい」を表す内容にこの「裏と表」がテーマとして通底している。
絵本というと子供の読み物と思うかもしれない。しかし、世の美術作品が鑑賞者の対象年齢など決めないように、井上奈奈の絵本もまた、老若男女が自由な読み方をすることができる、懐の深い作品になっている。

冒険研究所書店(大和市)
荻田 泰永店主
冒険研究所書店は5月24日で開店2周年です。2年前、着想から開店まで4カ月という速さで書店を始めました。これまで何度、なぜ冒険家が書店を始めたのかと聞かれたでしょうか。その答えは、ぜひお店で直接私に声をかけてくださいね。
冒険研究所書店
https://www.bokenbooks.com/
2023年5月15日公開 | 2023年5月14日神奈川新聞掲載
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