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記念展
ゆかりの作品に見る地域と美術の関係 開館25周年、茅ケ崎市美術館で記念展
- 茅ケ崎市美術館

開館25周年を迎えた茅ケ崎市美術館(同市東海岸北)で、記念展「渉(わた)るあいだに佇(たたず)む 美術館があるということ」が開かれている。茅ケ崎にゆかりのある作家が手がけたり、同館のために制作されたりした近代絵画やメディアアート、写真、アニメーションなど41点を展示。多様な表現から地域と美術の関係に触れている。
冒頭の展示は、同館が所蔵する茅ケ崎ゆかりの名品が並ぶ。大正時代を代表する洋画家、萬鉄五郎(1885~1927年)の「海岸風景」(26年)は、木造の船と穏やかな波が描かれている。萬は晩年を茅ケ崎で過ごし、海岸の風景を多く手がけた。茅ケ崎は気候が温暖で、明治期から療養のため多くの文化人らが滞在。その影響により、独自の文化も生まれたという。同館の藤川悠学芸員は「美術館と地域は地続きであることを、過去の作家とのつながりから見せたかった」と話す。
地下の展示室には現代作品がそろう。鵜飼美紀の「About an area where share with 〈1〉」(2023年)は、天窓から自然光が差し込む、この部屋のために制作された巨大なインスタレーションだ。木枠に液状の天然ゴムを流しては乾かす作業を繰り返して皮膜を作り、その厚みが表情を生む。天候や時間で変化する光を受けることで、見え方も変わってくる。

来館者や地元の人々への取材を基にした「こえを聴く─『聞き書き』からなぞる美術館」(同)は、編集者の森若奈が手がけた。
「美術館に来るまでの自然がいい、私は好きですね。」「ピカソだったら、なんだか知らないけど行くんだよな。」「絵は観(み)る人によって違うもんな。いろんな人がいるから。状況によっても変わるから。」-。天井からつるされた文字が滝のように流れ、声が響く。他者の考えの中に身を置く不思議な空間が広がる。

街のシンボルでもある烏帽子(えぼし)岩と、それにまつわる民話をテーマにしたのはアニメーション作家の若見ありさ。茅ケ崎特有の黒みがかった海辺の砂を使って絵を描き、それらを一コマずつつなぎ合わせたサンドアニメーションを制作した。
他にも、街中に落ちているごみから糸をより合わせて編んだセーターや、地元の小学生、高校生らと作家が展示室の壁いっぱいに描いたドローイングなど、地域と深く結びついた作品が展示されている。

同館は「美術館は作家と作品、時代と社会、他者と自分、過去と未来など、さまざまな間にたたずんでいる。地域に根差した場であることを再認識できる機会になれば」と期待する。
6月11日まで。月曜休館。一般700円ほか。問い合わせは同館、電話0467(88)1177。
2023年6月1日公開 | 2023年5月29日神奈川新聞掲載
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