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文化部員の体験記
この秋、横浜で個展開催 写真家・浅田政志の撮影現場に潜入
- KAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)

コスプレでさまざまな職業になりきるユニークな家族写真で知られる写真家、浅田政志さん(43)=津市在住=の個展「浅田政志展-YOKOHAMA PHOTOGRAPH─わたし/わたしたちのいま─」が今秋、KAAT神奈川芸術劇場中スタジオ・アトリウム(横浜市中区)で開かれる。写真のモデルは公募で選ばれた県内在住の人や団体。「わたし/わたしたちのいま」をテーマに「一枚の写真にいまを写す」作品制作に浅田さんと取り組んだ。5月中旬、横浜市内で行われた撮影に潜入した。
浅田さんは自身と両親、兄の4人で消防士やレーサーなどに扮(ふん)した「家族写真」シリーズで注目を集め、2009年に写真集「浅田家」で木村伊兵衛写真賞を受賞。20年には著書を原案にした映画「浅田家!」が公開されるなど、市井の人々の思いや人生を写真で表現してきた。

個展では、横浜で撮り下ろした新作を披露する。「横浜は日本で写真が産声を上げた街の一つで、写真家にとっても特別な場所」と浅田さん。事前に美術館や博物館で、幕末から明治にかけての「横浜写真」などを何枚も見返した。手軽に写真が撮れる現代と異なる時代を振り返り、写真の魅力を改めて感じたという。

モデルは応募した112組から浅田さんが19組を選んだ。10日間で「生まれつき耳に障害がある赤ちゃんと家族」「ダンスと勉強をがんばる女の子」「長年勤めた会社を定年退職した女性」らをスタジオや屋外で撮影。要望を取り入れながら、それぞれの「いま」を切り取った。
横浜市泉区の鈴木由香里さん(60)は夫、娘2人の4人で撮影に臨んだ。テーマは1年に4~5回行くという「家族旅行」。地名入りのボトルで背景を飾り、旅先での思い出の味をそれぞれ手に持って豪快に口を開ける、という一枚になった。還暦の記念に応募したという鈴木さんは、「山あり谷ありのジェットコースターのような人生だったけど、今が幸せと思えるのは家族の支えがあったから。浅田さんの力で私たちらしい家族写真が撮れた」とほほ笑む。

昨年、完成から100年を迎えた「三渓園」(同市中区)も公募で選ばれた。撮影時に初めて訪れた浅田さんが職員と決めたテーマは「100年後も残したい庭園と景観」。「横浜が誇る国指定名勝だけあり、建物と景色が力強い」と声を弾ませた。
庭師5人と撮影場所や配置、使う道具などを入念に打ち合わせ。最年少の菅沼笙(しょう)さん(22)を主役に、江戸期の建物を移築した「臨春閣」や「月華殿」を背景に置いて松や池、芝生を手入れする庭師たちと法被をまとった職員が建物の雨戸や障子に手をかける一瞬を捉えた。応募した中村暢子学芸員は「関東大震災や戦禍を乗り越えた三渓園の今の姿があるのも、裏方で支える人たちがいるから。それを次代に伝えたかった」と話す。

公募モデルの作品に加え、個展の会場では横浜中華街の料理人、バスケットボール男子B3の横浜エクセレンス、ホテルニューグランド(同)、総持寺(同市鶴見区)など横浜ゆかりの土地や人々を収めた写真も展示する。「楽しみながら撮影できた。日本の写真発祥の地である横浜での個展に、今からわくわくしている」と浅田さん。新作は明治期に流行した「横浜写真」へのオマージュを込め、モノクロ写真に彩色の加工を施し完成させる。「僕と被写体、両者の視点が交差したところに、いい作品が生まれる」と期待を込める。

「浅田政志展」は、9月3日~10月1日(木曜休み)。午前11時~午後6時。一般千円(ポストカード付き)、学生・65歳以上500円、高校生以下無料。問い合わせは同劇場、電話045(633)6500。
2023年7月25日公開 | 2023年7月23日神奈川新聞掲載
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