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鈴木涼美さんに聞く 風俗業界の女性描く時、意識すること


 夜の街や性産業の現場などで働く女性たちの姿を抑制の効いた文体で描写し、日本文学に新しい潮流を生み出している。2022年に発表した初めての小説「ギフテッド」、23年の2作目「グレイスレス」はいずれも芥川賞候補になった。

 自身も大学在学中に歓楽街の飲食店で働き、アダルトビデオにも出演。新著「浮き身」は2000年ごろ、青春時代に暮らした横浜での経験を元に書いた。

 40代を迎えようとする主人公が、恋人との行き違いから19歳の頃のある数週間を思い返す。横浜駅西口のマンションの1室、無店舗型風俗店の開業準備をする部屋には若い男女が集まり、無為にも見える時間を過ごしていた。大学に通わずに飲み屋で働く「私」は風俗嬢になるつもりはないものの「この部屋にいる限り、少なくともしばらくは何者にもならずに済むように感じて」そこにとどまる。

 すえた匂いと結びついたその記憶は美しいとは言いがたいが「何でもない場所に集う若者たちの、刹那的な青春の輝きを書き留めておきたかった」という。「飲み屋での仕事が終わってから深夜のファミリーレストランで大学の課題をこなし、また遊びに行くような生活を送っていたけれど、楽しかった。時代的にも、無目的な若者を許容する余裕があったように思います」と振り返る。


「浮き身」(新潮社/1650円)
「浮き身」(新潮社/1650円)

 「現在を否定したくなかった」という通り、物語の結末にはほのかな温かさが漂う。「ポジティブな気持ちで過去を思い出せるのは今が恵まれているからだと思う。つまんない大人になっちまったなと思う部分はありますが」と笑う。

 風俗業界で働く女性たちを描く時に意識するのは「現場を知っている視点」という。「ポルノや性の商品化について議論があることも理解しているけれど、実際にその仕事で生活し、サービスを求める人たちがいる。人間の性は生々しいものだし、リアルな女性たちの姿を、自分の文体で書いていきたいんです」

 自身が夜の闇にのみ込まれそうになった時「世界につなぎ留めてくれた」のは活字と本だった。「青春時代、渋谷のブックファーストや伊勢佐木町の有隣堂で多くの本と出合った。書店が街にあることは大きな価値だと思います」



すずき・すずみ
 作家。1983年生まれ。鎌倉市出身。慶応義塾大学卒。東京大学大学院修士課程修了後、日本経済新聞社で5年半勤務。小説第1作「ギフテッド」が第167回芥川賞、第2作「グレイスレス」が第168回芥川賞候補。著書に「身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論」(幻冬舎)、「おじさんメモリアル」(扶桑社)、「娼婦の本棚」(中公新書ラクレ)、「『AV女優』の社会学 増補新版 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか」(青土社)など。

 夜のお店で働く女性たちに対して、そうでない女性たちが向ける視線は時に厳しいものがあり、職業差別になりはしないか? と気になっていた。「女性や同性愛者の権利に敏感な人でも、彼らが家父長的な社会に加担していたり売買春に関わっていたりすると嫌悪感を持つ場合は多い。女性からの拒絶反応は悲しいけれど、キャバクラ嬢やホステスはそう扱われてしまうことに慣れている部分もあるし、一人一人のプライドの置きどころの違いの問題だと思っています」という分析に長年のモヤモヤが少し晴れた。「横浜駅西口や関内の夜のお店は地元の、新横浜は出張のお客さんが多い」など、リアルな話が興味深く、脱線だらけの取材になってしまった。楽しいお話をありがとうございました。

2023年8月28日公開 | 2023年8月27日神奈川新聞掲載

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