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神奈川県内主要美術館に2人の女性館長が就任

今年、県内の主要美術館で新たに2人の女性館長が就任した。平塚市美術館は、公立美術館で長く学芸業務に携わった加藤弘子さん(62)が特別館長に、ポーラ美術館(箱根町)は異業種から転身した野口弘子(61)が館長になった。2人にまちの印象や今後の美術館の展望などを聞いた。
平塚市美術館の加藤さんは、4月から特別館長に就任。街のことをよく知ろうと「週末に市内をドライブして回った」と笑顔を見せる。
東京都出身。1989年に東京都美術館の学芸員になり、東京都現代美術館には立ち上げ段階から携わった。「世界中から本が集まるアートブックフェアのような大きなイベントや、アニメ、ファッションなど多彩な展覧会を企画した」と振り返る。

開館から32年になる平塚市美術館は、湘南地域ゆかりの作品を中心に約1万2千点を所蔵。作家や市民ら、多くの人から信頼を寄せられている。「地域の人たちとの距離の近さは大きな財産」と加藤。前任の特別館長・草薙奈津子さんをはじめ、「学芸員たちがこれまで築いてきた足場をもう一度確かめながら、人、もの、未来を大切にし、美術館という一つの空間をワンチームでつくっていきたい」と意気込む。
草薙さんに続き2人目の女性特別館長になった。「草薙先生のことは学生時代から展覧会や本を通じて知っていました。まだ男性中心だった学芸員の世界で先駆者的な存在。専門分野も同じ日本画だったのでその分、後任という立場はとても緊張する」と話す。一方で、同館の美術品選定評価委員会委員を務めたこともあり、「学芸員には以前からの顔見知りも多く、不安はありません」とほほ笑む。
この夏は「湘南ひらつか七夕まつり」やサッカー観戦など、平塚ならではの体験をする機会もあった。「平塚は海や山、市街地のバランスがいい街。東京に比べ、人は穏やかで時間の流れもゆっくり。街の呼吸に合わせながら、開かれた美術館のありようを探していきたい」と抱負を語った。
23日から、藤田嗣治の初期作品を中心に新たに収蔵された約40点を展示する「新収蔵品展」を開く。10月7日から、明治・大正時代に制作された輸出陶磁器など、里帰り品を中心に展示する「横山美術館名品展 明治・大正の輸出陶磁器─技巧から意匠へ」を開催予定。
7月から館長に就任したポーラ美術館の野口さんは、32年間キャリアを積んだホテル業界から美術界に飛び込んだ。モネやピカソなど国内屈指の西洋絵画コレクションを誇る同館。「私という異質なピースが加わることで美術館が発展していけたら」と穏やかに笑う。
長崎県出身。ハウステンボス(同)、ザ・ウィンザーホテル洞爺(北海道)など、全国で有名ホテルの開業や再建などを担った。

2006年には、ハイアットリージェンシー箱根リゾート&スパ(箱根町)の総支配人に。「日本人女性初の国際的ラグジュアリーホテルの総支配人」として注目を集め、独自の視点で細やかな配慮とユニークなアイデアを提案するなど、11年間手腕を発揮した。
この仕事をきっかけに「箱根愛」が強くなり、ついのすみかとして町内に自宅を構えた。「地域の人たちは温かく迎え入れてくれました」と振り返る。しかし、「ほどなく沖縄への異動辞令が出ました」と苦笑い。20年に箱根町に戻り、「居住歴は通算14年」になった。
館長として求められていることを、自身のキャリアを元に考えた。人との接点を大切に、と掲げたのが「地域コミュニティーとのつながり強化」「ホスピタリティーの向上」「体験価値の最大化」の三つの指針。「お客さまを迎え、笑顔で帰ってもらうのはホテルも美術館も同じ」と力を込める。
観光地に立地する同館は都心の美術館とは異なる趣を持つ。作品はもちろん、箱根の自然、建築、人が響き合う場を目標に「ヒューマンタッチとホスピタリティーを加え『心ゆさぶる美術館』を追求していきたい」と意欲を見せる。
12月3日まで、明治から現代アートの作家まで焦点を当てた日本画の全貌を探る「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画」を開催中。会期中、展示替えを行いながら約130点を展示する。
2023年9月22日公開 | 2023年9月18日神奈川新聞掲載
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