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「かながわの本」を6冊紹介 ねこ鉄、ハイキングガイド、酒場巡り、高校生俳句・・・
- 2020年2月20日 神奈川新聞掲載
こんにちは!イマカナ編集担当です。今週は、「かながわの本」を紹介します。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、県内でもイベントの中止や延期が相次いでいます。じっくりと、読書を楽しむのもいいかもしれませんね。
ニャンとすてきな共演

ねこ鉄
ローカル鉄道と猫は相性がいい。適度に人が行き来するから時に構ってもらえるし、といって無人駅が多いから追い出されることも少ない。決まった時刻に通る列車を、どこか待っているようにも見える。鉄道ファンの猫がいたりして。
全国15路線の周辺に暮らす猫の姿を捉えた。県内では大雄山線とJR鶴見線の“住人”を紹介。前者では川の堤防に寝転がり、3両編成の電車を眺める(ように見える)三毛猫。後者は、昼間は2時間に1本しか電車が来ない駅で、人けのないホームに数匹が集まって“猫会議”。発車する電車を見送るワンショットは、その後ろ姿が鉄道員さながらで、りりしい。
著者は乗り物を撮るベテラン写真家。かつて専門誌で鉄道の空撮を連載し、少年の「撮り鉄」に技術を指南していた。本作はエレキギターをアコースティックに持ち替えた趣がある。登場する路線はどこも穏やかで、優しい情景が伝わってくる。そこに猫が暮らす。猫が好む場所は、人間にとっても居心地がいいのだ。
(花井 健朗 撮影・文 講談社電話03(5395)3608・1540円)
住民が公共の原動力に

ザ・まち普請
人口減少の現代、地域の課題解決を行政にだけ任せては間に合わない。本書は相互扶助を意味する「普請」の語を用い、市民と行政の「協働」を紹介する。
横浜市の事業などを利用した30の事例が興味深い。緑化や交流カフェ、都市農業、アート、子育て支援など内容は多様だが、それぞれが目指し得られるものは、いずれもコミュニティーの活性化や再構築だ。
戸塚区舞岡町では、看板が乱立し雑草が繁茂したバス停の周辺を「ここはまちの玄関、ここは大切な場所」と捉え、花を植えたり展望台を設けたりした。もともと地蔵や火の見やぐらのある古道で、地域の歴史の「再発見」といえた。
開発から半世紀を経て高齢化率が4割を超えた金沢区西柴の住宅団地には、空き店舗を改装した交流の場が10年前にオープン。やがて学習支援や介護予防の拠点としても発展した。
地域をよく知る住民にこそ、公共の担い手の素質がある。本書はそう気付かせてくれる。執筆者は都市計画家や行政職員、研究者ら22人。
(横浜プランナーズネットワーク ザ・まち普請編集委員会 編著 横浜プランナーズネットワーク電話045(681)2922・2500円)
多様な「歩き方」を指南

鎌倉&三浦半島山から海へ30コース
三浦半島のハイキングガイドで、2年ほど前に刊行された初版の改訂版である。半分以上の写真を差し替え最新の情報に更新。鎌倉、南横浜・逗子、葉山、横須賀、三崎のエリア別に計30コースを紹介する。
コースごとに難易度や歴史、自然、観光の見どころを3段階で分類する。浜辺を歩く高低差の少ないコースもある。短縮コースや寄り道の指南、スズメバチやマムシの危険性など、解説は具体的で親切だ。
鮮やかな写真が目を引く。深山を思わせる鎌倉の大仏切り通しや番場ケ谷(ばんばがやつ)、葉山の森戸川源流、夕日に照らされた七里ケ浜…。見るだけでも満足できそう。
史跡案内も手厚い。関東大震災で崩壊した観音崎灯台の残骸など、見てみたくなる。珍しい積雪時に「お手軽に雪山を楽しめる」と初級コースを歩いた一節が面白い。なるほど、そういう楽しみ方もあるのか。マナーの悪化で立ち入り禁止場所が増えた、との記述には世知辛さもにじむ。
著者は横須賀市に住む。山を伝える「山楽ライター」。
(樋口 一郎 著・東京新聞[中日新聞東京本社] 電話03(6910)2527・1540円)
足で稼いだ〝駅前評論〟

東海道線154駅
副題に「降りて、見て、歩いて、調べた」とある。言うは易く行うは難し。表紙を埋める駅名標の数を見れば、その苦労が分かる。
東京─神戸間589・5キロを結ぶ東海道線は国内最古の鉄道路線であり、旅客、貨物ともに今も大動脈だ。著者はその全154駅に降り立ち、その歴史や街の風情などをつづった。
1駅の記述が厚い。東京や横浜のようなターミナルだけでなく、例えば県内では戸塚に3ページ、真鶴に2ページを割く。物語は“スター”にだけあるのではない。
木造駅舎の大磯は「東海道線の旅では一番最初に出会う時代を感じる駅」。二宮では戦時中の機銃掃射の被害を今に伝える「ガラスのうさぎ」像に触れる。一見「何の変哲もない」鴨宮は「世界に誇る新幹線発祥の地」だ。海を望む根府川では、茨木のり子の詩「根府川の海」を引用する。
著者の印象が主観的に記されているが、それも実際に足を運んだからこそ、だろう。駅前の商店街がにぎやかな大船は「東海道線の高円寺・荻窪」だそうである。
(鼠入 昌史 著・イカロス出版電話03(3267)2766・1870円)
「一杯」を誠実に楽しむ

ブラ酒場
本日の日曜版「定食座談会」にも登場した「のんべえライター」による酒場巡り。15年を費やし訪ね歩いた55店を厳選した。都内の店が中心だが「鎌倉・大船・辻堂」の章もある。
鎌倉では酒屋さんで「角打ち」。店の一角のカウンターで立ち飲みするのだ。「つかの間、私はこの酒屋ののんべえの娘で、店が終わって一杯やっているという妄想に浸る」といった描写がいい。夕焼けの富士を望む辻堂の店では里芋やカキなど冬の味を楽しむ。
雑誌「おとなの週末」の記事をまとめた。まず客として覆面取材し、おいしかったら正式に取材を申し込むという誠実さ。その苦労を記した前書きが読ませる。時に不審がられながらもギョーザの断面を撮り、すしの重量を計測し…。
所々に挟まれたコラムでは、飲む状況を大切にする姿勢も伝わってくる。銭湯に行ってから、あるいは列車の中で。新幹線は速すぎるから在来線で「風景を眺めながら一杯」という一節に、大いに賛同。著者は福島県古殿町生まれ、横浜国大出身。
(本郷 明美 著・講談社ビージー電話03(3943)6559・1100円)
巧みで普遍的な感受性

17音の青春 2019
幼時に旅したカンボジアの赤土を思い「粛清に使はれた銃晩夏光」と詠む。メ-ルかラインかの文面に父の機微を感じて「鰯雲(いわしぐも)無口な父の絵文字かな」。言葉の巧みさもさることながら、その感受性に感じ入る。
神奈川大学全国高校生俳句大賞の受賞作品集である。審査員は長谷川櫂、復本一郎、黛まどから。21回目を数え、応募数は1万1022通に上ったという。
最優秀は5人が3句ずつ紹介される。次の入選作品も3句ずつ。3句あれば、どんな町に暮らしているのか、どんな高校生活なのかが連想され楽しい。
最後の「一句入選」は逆に、作者の背景が想像しにくいところがいい。「太宰忌や裏切り者も息をする」「不眠症の脳の形や黒葡萄(ぶどう)」は闇の深さが心配になるし、「捨てられたライタ-を蹴る夏の果て」には不良っぽさがある。「消しゴムの裏に書かれたラブレタ-」「汗流す仲間と共にこぶし突く」などは、高校生らしい普遍的な作品だ。
選考会の議論を書き起こしたくだりも面白い。
(神奈川大学広報委員会 編・KADOKAWA電話(0570)002301・770円)
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