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気になる 横浜美術館 アート彩時記(1)
外国人写真家が見た横浜の大転換期

 改修工事により2023年度まで長期休館中の横浜美術館。再開館に向けて日々準備にいそしむ学芸員13人が、同館のコレクションにまつわる話をリレー形式でつづります。


フェリーチェ・ベアト「横浜」1864-65年、アルビュメン・シルバー・プリント、手彩色、21.6×28.8センチ、横浜美術館蔵
フェリーチェ・ベアト「横浜」1864-65年、アルビュメン・シルバー・プリント、手彩色、21.6×28.8センチ、横浜美術館蔵

 他愛のない景色にみえますが、こちらは開港後間もない横浜、山手の丘から現在の石川町方面を臨む風景です。横浜の中心部が、たった150年ほど前はこんな姿だったなんて! 中央に見える造営中の横浜製鉄所が、小さな村の近代化への第一歩を象徴しています。

 カラー写真かと見まがいますが、これは絵師によって丹念に着彩された、この時代特有の「彩色写真」です。撮影者のフェリーチェ・ベアトは、1860年代から20年余りにわたり横浜に住み、幕末・明治初期のニッポンの風物を写真に収め続けた英国籍の写真家。この写真の撮影時期はつまびらかではありませんが、横浜製鉄所の開業が1865(慶応元)年9月とされていることから、その少し前、64年から翌年初めごろと目されます。

 さて、この写真と同時期に、横浜から遠く離れたエジプトの地で日本人の一行を撮影した興味深い写真があります。


アントニオ・ベアト「遣欧使節とスフィンクス」1864年、アルビュメン・シルバー・プリント、25.2×30.1センチ、横浜美術館蔵
アントニオ・ベアト「遣欧使節とスフィンクス」1864年、アルビュメン・シルバー・プリント、25.2×30.1センチ、横浜美術館蔵

 この一行は、幕末期の攘夷(じょうい)運動の高まりを受け、横浜を再び鎖港することを列強国に直談判するために派遣された遣欧使節団です。ギザのピラミッドを訪れたツアー客の記念写真にしか見えませんが(ある意味その通りですが)、スフィンクスと侍という取りあわせの珍妙さでインパクトは抜群。撮影者のアントニオ・ベアトはなんと、さきのフェリーチェのお兄さんです。この兄弟、若い頃は活動を共にしていましたが、ある時期からたもとを分かち、弟は日本に向かい、兄はカイロで写真館を営みます。この使節団が日本をたつ際に、フェリーチェがカイロにいる兄を訪ねるよう口添えしたのか、純然たる“奇遇”なのかは、いまも定かでありません。

 一行はこのあとパリに赴きますが、横浜鎖港の交渉はあえなく破談します。裏を返せばこの破談が、日本最大の港を擁する横浜の飛躍的発展を後押ししたとも言えます。地球の正反対の場所にいた兄弟が、図らずも同時期に写した2枚の写真。画像自体にはなんの接点も見いだせませんが、どちらも横浜の発展の由来を語っているのです。(横浜美術館・松永 真太郎)

学芸員みちくさ話



 上記の150年前の横浜の写真と、同じ場所から今見える風景を確認してみたくなり、よく晴れた日の朝、その撮影場所探しに繰り出しました。

 ベアトの写真の中の横浜製鉄所(現・JR石川町駅北口付近)と富士山の位置を手がかりに、歩き回ること1時間半。ある地点で真西の方角にパッと視界が開けました。元町百段公園(横浜市中区)という、ブラフ(崖)の際にある小さな公園のそばからの一枚がこちらです。



 中央の大きな建物が横浜製鉄所跡地にあたるので、富士山との位置関係はぴったり。公園の隅にあった案内板によれば、ここは幕末から大正期にかけて横浜有数の見晴台だったそうです。一方、ベアトの写真はもう少し製鉄所寄りの、もっと高い位置から見下ろしたアングルのように見えるのですが、周囲にここより高いところはなく、目の前は崖です。調べてみると、この山手西面の崖は関東大震災で崩れ落ち、当時と今とでは地形が異なるようです。

 ベアトの撮影場所探しは、目標に肉薄したものの、わずかに手が届かず。「なんだかんだ150年前の風景のほうが魅力的な気が…」と負け惜しみを込めて往時をしのびつつ、帰路につきました。150年後にここから見える風景は、どんなものでしょうね。

2022年1月27日公開 | 2022年1月23日神奈川新聞掲載

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