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小川糸さんに聞く 鎌倉舞台の小説続編 日々を重ねて人生に


 鎌倉を舞台に、一風変わった代書屋を営む鳩子の暮らしを描いた小説「ツバキ文具店」。このほど刊行された「キラキラ共和国」は続編になる。



 「鎌倉は海や八幡宮(はちまんぐう)などにぎやかなイメージが強いですが、山の方はちょっと歩いただけで人里離れた雰囲気がある」

 2作とも、執筆時は鎌倉に滞在して、実際の暮らしぶりを体験した。湿気が多くてムカデが靴に隠れていたり、家作が近くて隣の声がよく聞こえたりといった経験が、作品のあちこちに顔を出す。

 「ムカデをつまむピンセットを100円ショップで買いなさいって、住民の方にアドバイスされました」と笑う。

 御成町のとある店では、食後のコーヒーを楽しみつつ、隣り合った女性と言葉を交わした。普段着だったが「店に入る様子がかっこよくて、つられて入った」と言われ、うれしくなった。

 「東京で、見知らぬ人とこんなふうに気軽に会話することはないですね。鎌倉の人々は心にゆとりがあるというのか、ちょっとした余裕を感じます」

 前作では鳩子の仕事ぶりを中心に、個性あふれる人々との「ご近所づきあい」を描いた。続編では、鳩子が子どもを持つミツローさんと結婚し、新しい家族を構えていく姿がつづられる。

 「血がつながっていても、つながっていなくても、家族になる努力をして、ゆっくり時間をかけてお互いを理解することで、家族になっていくんじゃないか」と家族観を語る。

 人と人が向き合い、関係を築きながら人生を再生していく様子を、デビュー作以来、多くの作品で描いてきた。

 「いろんな苦しいこと、つらいことがあるけれど、自分次第で明るい世界へ行けるという大きなメッセージを込めています。どんなにつらい環境にいても、太陽に向かっていける、と」

 そこには「毎日やっていることの積み重ねが人生になっていく。一日一日を感謝して過ごせれば、豊かな人生になる」と、暮らしを大事にする思いがある。



おがわ・いと
作家。1973年、山形市生まれ。デビュー作「食堂かたつむり」(2008年、ポプラ社)が大ベストセラーになる。同書で11年イタリアのバンカレッラ賞、13年フランスのウジェニー・ブラジエ小説賞受賞。著書に小説「喋々喃々(ちょうちょうなんなん)」「つるかめ助産院」「サーカスの夜に」、エッセー「これだけで、幸せ 小川糸の少なく暮らす29ヵ条」、絵本「まどれーぬちゃんとまほうのおかし」など多数。

16年「ツバキ文具店」(幻冬舎)は本屋大賞4位、NHKでドラマ化されるなど人気に。続編「キラキラ共和国」(同、1512円)を17年10月に刊行。発売記念トークショーを11月15日午後5時から、鎌倉市の由比ガ浜公会堂で行う。要予約。申し込み・問い合わせは幻冬舎、電話03(5411)6211(平日のみ)。

記者の一言
 作家によって、執筆時間は早朝、深夜などさまざま。小川さんの執筆スタイルを尋ねると「冬の朝が多いですね」と意外な答えが返ってきた。というのも、まるで子どもを妊娠、出産するように一つの作品を生み出しているからだという。秋に準備に入り、冬に執筆、春は手直しなどの編集作業。夏は休みで、秋口に出版。1年の繰り返しで人生が積み重なっていくと考えれば、1作ごとに人生を振り返ることができる感じ。そして子どもが一人ずつ生まれてくる豊かさ。毎年、出産するお母さんは大変だが、ファンとしては、かわいい子どもに毎年会えるのはうれしい。読後感の良さも「せっかくお金を払って手に取ってもらうものなので、少なくとも嫌な気持ちにはなってほしくない」との思いがあるそうだ。

2022年4月13日公開 | 2017年11月5日神奈川新聞掲載

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