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逢坂冬馬のデビュー作「同志少女よ、敵を撃て」 累計発行部数47万部を突破

逢坂冬馬のデビュー作「同志少女よ、敵を撃て」が累計発行部数47万部を突破した。第2次世界大戦中の独ソ戦で、心と身体に傷を負いながらも苛烈な戦いに身を投じていく女性狙撃兵たちの姿を描く。重厚なテーマながら、魅力的な人物造形と読みやすい文体で幅広い世代に支持が広がった。
会社勤めの傍ら小説を書いていた逢坂は、昨年8月、今作で第11回アガサ・クリスティー賞大賞を受賞。第166回直木賞の候補作となったことでも話題を集め、今年4月には第19回本屋大賞に輝いた。「書店員さんが応援してくれるだけでなく、戦争小説になじみがなかったという女性や若い人からも感想をもらえるのもうれしいですね」と手応えをにじませる。
物語の主人公は、モスクワ近郊の農村で育った少女・セラフィマ。1942年、ドイツ軍の襲撃を受けた村は全滅するが、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。イリーナが教官を務める訓練学校で狙撃兵となったセラフィマは、ある思いを胸に秘め、戦場に向かっていく。

物語のテーマは戦争とジェンダー。戦争の中で女性たちが受ける差別や苦しみを細やかに描ききった。史実をベースにしていることから膨大な資料を読み込んだが、主人公たちの内面についてはスベトラーナ・アレクシエービッチが独ソ戦に従事した女性たちの声をまとめた「戦争は女の顔をしていない」(岩波書店)と、リュドミラ・パヴリチェンコの回想録「最強の女性狙撃手─レーニン勲章を授与されたリュドミラの回想」(原書房)の2冊に学んだ部分が大きいという。「『戦争は─』には、元女性兵士たちがどんな出来事に困惑し、そして慣れていってしまったのかがうかがえる生の言葉が詰まっている。リュドミラの回想録からは完成されたスナイパーの姿を知ることができました」
伝えたかったのは「人間の内面を変えてしまう戦争の恐ろしさ」。だからこそ戦後の主人公たちの姿を丁寧に描いた。309人のドイツ兵を殺して称賛されたリュドミラも、戦後は孤独だったのではないか、と推察する。「戦争経験者である祖父母の体験に触れ、戦争が人生に与える影響の大きさを実感した。生き残った人が直面するつらさや苦しみこそ書かなければならないと思ったんです」
2月に始まった、ロシアによるウクライナ侵攻には衝撃を受けた。「落ち込みましたが、執筆時は現実の戦争に思いを致してほしいという気持ちもあった。今はウクライナで傷ついている方に寄付金を送るほか、OVDインフォ(ロシアの人権団体)に寄付することでロシア国内の反戦運動を支援しています」
今後はジャンルを限定せず、広く関心のあるテーマで執筆に取り組みたい、と話す。「現代の日本を舞台にしたものも書きたい。ただ、戦争というテーマは自分の中のゆるぎないテーマとして持ち続けることになると考えています」
2022年5月30日公開 | 2022年5月30日神奈川新聞掲載
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