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まちを耕す本屋さん<1>
古民家をリノベ「真鶴出版2号店」 新しい豊かさ、地域から発信
![[写真右から]川口さん、來住さんと店舗のスタッフ=真鶴出版(真鶴町)](https://imakana.kanaloco.jp/archives/019/202207/77a68af332e792aeb288ec5ca357cc7d.jpg)
およそ7900人が暮らす小さな港町・真鶴町。「背戸道(せとみち)」と呼ばれる細い路地の先に、築60年の古民家をリノベーションした「真鶴出版2号店」がある。ショーウインドーには個性的で楽しげな表情の本が並び、来訪者を迎える。県内唯一の「過疎地」であるこの町で若い夫婦が始めた事業が、地域に人を呼び込む磁力となりつつある。
真鶴出版は、出版業と宿泊業を展開する「泊まれる出版社」。運営する川口瞬さんと來住(きし)友美さん夫妻の目的は「自分たちが好きなまちに住み、好きな仕事をして暮らすこと」だ。IT企業に勤務していたが、出版業に興味を持っていた川口さんと、ゲストハウスに関心があった來住さんが2015年に移住し、事業をスタートさせた。
真鶴には「新しい地方のかたち」をつくる土壌があると感じたという來住さん。「都会で経済競争に追い立てられるのではなく、小商いをしながら、温かいコミュニティーの中で静かな暮らしを楽しむ生き方があってもいい」と話す。
2人は自らの事業を、人と地域の関係性を編み直す「リローカルメディア」と定義。住民の視点から地域の魅力を掘り起こし、他地域ともつながることを目指す。宿泊者を自らがガイドし、町を案内。町内の干物店を紹介した本には、「ひもの引換券」を付けて町の魅力を体験してもらう仕掛けとした。
同社が発信する真鶴の情報に触れて町を訪れ、豊かな自然と食文化、人の温かさ、充実した暮らしを送る2人の姿に魅了される人も多い。夫婦との関わりをきっかけに、約60人が同町に移住したという。

18年に開設した2号店には、これまで発行した本や交流のある著者の書籍をそろえた物販スペースを作った。來住さんは「今の時代だからこそ、実際に人と会えることの価値は高い」と、来客と直接触れ合うことにこだわる。「今後は販売する書籍を増やす。私たちらしい選書にこだわり、町の人が新しい本に触れられる場所にしたいんです」
真鶴出版の本は「自分たちの分身のようなもの」と來住さん。そのためインターネット書店では販売せず、「信頼できる書店員さんがいる書店」のみの流通にとどめている。「お店の規模にかかわらず、この人に売ってもらっているんだ、と私たちが把握できる範囲で取引をしたい」と話す。
「他の地域の方を招いて、町の人たちの暮らしが楽しくなる催しを検討中」と県外との交流にも積極的だ。「お茶と佐賀県嬉野市について紹介する『うれしいお茶』という本を発行したのですが、今度は真鶴で嬉野の焼き物などを紹介できたら」と構想を広げる。
同町では6月23日、個人経営の書店「道草書店」が開業。本を軸にしたコミュニケーションの活性化が期待される。「まちへの提案や店主の思想が感じられる本屋は応援したくなる」という來住さん。「出版社としても、紙ならではの面白さにこだわり、思いがこもった本を作り続けていきたいです」
真鶴出版:真鶴町岩217。問い合わせは公式ホームページから
※地方創生の事例を紹介する展示会「山水郷デザイン展2 3つのコンヴィヴィアリティ」(GOOD DESIGN MARUNOUCHIで15日から8月14日まで開催、会期中無休/入場無料)に真鶴出版として参加予定
活字離れ、書籍のオンライン販売の増加、電子書籍の普及など、書店に吹き付ける風は冷たく厳しい。出版科学研究所の調査によると、1999年から2020年にかけて書店はほぼ半減し、県内でも「本屋のないまち」が増えている。そんな中で、本を中心に人が集う場所づくりを通して、新しい風を起こそうとする人たちの姿を追った。
2022年7月4日公開 | 2022年7月4日神奈川新聞掲載
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