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「無国籍者」に光当てた絵本「にじいろのペンダント」刊行 早稲田大教授、陳天璽さん半生を基にした一冊

どの国からも国民と認められない「無国籍者」の存在に光を当てた絵本「にじいろのペンダント」(大月書店、1870円)が刊行された。30年以上にわたり無国籍だった早稲田大教授、陳天璽(ちんてんじ)さん(51)=横浜市=の半生を基にした一冊だ。
主人公の名前はララ。1971年、6人きょうだいの末っ子として横浜中華街に生まれた陳さんをモデルにしている。「ララちゃんには国籍がないからね」。幼少期に向けられた憂いを帯びた一言が、絵本の冒頭に描かれる。
「私は一体何人(なにじん)なの」。誰もが国籍を持って当然とみなされる中、そこに当てはまらない自身の存在に疑問を抱いていく。
中国出身の両親は第2次世界大戦後、中国共産党と国民党が内戦状態になったために台湾へと渡り、やがて日本に移り住んだ。
72年の日中国交正常化で日本と台湾が国交を断絶。一家は中国か日本か、どちらの国籍を選ぶか決断を迫られた。非道な日中戦争の記憶、共産党政府とのイデオロギーの違いなどが脳裏をかすめ、両親が熟慮の末に出した結論が「どちらも選ばない」。陳さんは生後間もなく無国籍となった。

海外に行く際の手続きが煩雑だったり、台湾と日本の空港で入国を拒まれたり、何度も国籍を持たないがゆえの困難に直面。夢だった国連への就職も、無国籍を理由に断られた。
研究の道に進み、無国籍者をはじめ国際政治に翻弄(ほんろう)される人々の問題に向き合った。2003年には日本国籍を取得。「国籍がどうあれ私は私。私は私のままだということを証明したい思いもあった」とかみしめるように言う。
無国籍者の置かれた現状を広く知ってもらおうと、学生ボランティア団体「無国籍ネットワークユース」や作家の由美村嬉々(ゆみむらきき)さんらと共に絵本の出版に奔走した。「国籍って何だろうと、子どものうちから考えるきっかけを提供したかった」(陳さん)
団体メンバーで早稲田大4年の小川いぶきさん(22)も、活動を通し国内外の無国籍者の体験を聞いてきた。「国籍がないと安心して暮らせない社会に課題があることに気付かされました。より多くの人に無国籍の問題に関心を持ってもらうことで、社会の変化につなげたい」と期待する。
絵本の終盤。多彩な色が混ざり合って輝くペンダントと自分自身を重ねるララが、晴れやかな表情で前を向く。人との違いに悩む子どもたちに「自分を信じてほしい」との陳さんの思いがこのページに託されている。
「たとえ世の中の規範に当てはまらなくても、自分が劣っていると思わないでほしい。そのままのあなたでいいということを伝えたい」
絵本では、無国籍となるさまざまな要因や、国籍がないことで生じる困難の事例などについても解説する。陳さんと小川さんは「国籍制度の在り方や多様なアイデンティティーについて考える一助にしてほしい」と話している。
2022年10月4日公開 | 2022年10月4日神奈川新聞掲載
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