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馬場あき子さんに聞く 95歳歌人、歌も能も「日常そのもの」


 95歳の現役歌人として、現在も忙しい毎日を送る。映画「幾春かけて老いゆかん 歌人 馬場あき子の日々」(田代裕監督)は、2021年の秋からそんな多忙な日常を1年にわたって追ったドキュメンタリーだ。

 完成した作品を見て「私ってこういう人だったのか、と。今の自分がどうなのかは、この年になると客観的には見られない。それが見られて面白かった」と楽しそうにほほ笑む。

 新型コロナウイルス禍での生活だが、活動的な暮らしぶりが目を引いた。主宰する歌誌「かりん」のオンライン編集会議、選者を務める新聞歌壇の選考、書き下ろした能の新作「利休」のリハーサルや新潟での公演に出かける姿。かりんのメンバーが1人暮らしを支えており、常に人や情報に囲まれている。原稿と向き合う姿も映像に収められた。

 撮影を機に短歌や能との関わりを改めて問うこともないほど、歌も能も「日常そのもの」だという。「短歌と同様に深い、芯の部分で自分を支えてくれている」という能に出合ったのは、戦後まもない1947年のこと。かつて東京・根岸にあり、後に横浜能楽堂に移築された「染井能舞台」で上演された「隅田川」。大学の授業で参加した鑑賞会だった。



 既に亡くなっていると知らずに、生き別れた子を探す母親。その必死さと悲しみが込められた面(おもて)に心引かれた。その時、会場のあちこちで、すすり泣く声が聞こえたと振り返る。

 「戦争で夫や息子を亡くした女たちがどれほど悲しみを抱えていたか。抽象的な能を見てもあふれてくる、まだそんな時代だったのね。古典の世界に押し込めておく芸術じゃないと思いました」

 社会のありようを感じ取り、芸術に反映させようとする姿勢は、短歌においても変わらない。「いい歌」は、「今を感じられる歌」だという。

 「今、国全体が貧困という中で、われわれは生きている。苦さ、つらさが満ち満ちている中に風景もある。例え風景を詠んでも、どこかにそれが出てこないと、今の人の感覚にはフィットしないところがある」。時代をすくい取る鋭い感覚に衰えはない。



ばば・あきこ
 歌人。1928年、東京都生まれ。川崎市麻生区在住。48年日本女子専門学校(現・昭和女子大)卒。47年「まひる野」入会。同時期に能楽喜多流宗家に入門。78年歌誌「かりん」創刊・主宰。77年「桜花伝承」で第2回現代短歌女流賞、86年「葡萄唐草」で迢空賞など受賞多数。2021年「馬場あき子全歌集」。新作能に「晶子 みだれ髪」「額田王」「小野浮舟」「利休」。著書に「鬼の研究」「歌説話の世界」「歌よみの眼」「日本の恋の歌」など。19年文化功労者。日本芸術院会員。※映画「幾春かけて老いゆかん 歌人 馬場あき子の日々」は27日から東京・新宿の「K’s cinema」で、7月15日から川崎市アートセンターで上映。

記者の一言
 画面からも、実際にお会いしても、好奇心旺盛でエネルギーにあふれる様子が伝わってきた。思わず「今後の抱負は」と尋ねると、「墓場に行くことよ」と笑いつつも「過去を整理すること」だと答えてくれた。それは個人的な過去だけではなく、後世に向けての反省を含めた広い意味での振り返りだという。特に、女性の戦後短歌史については「誰も書いてこなかった」と心残りがある様子。「歴史的な筋道をたどりながら、前衛短歌以前、以後にまとめて…」とまるで頭の中には構想があるよう。「書いたら男の人に何か言われる、とか、まだまだ性差があって、なかなか女性の書き手が評論を書きにくいのよ」と漏らす。「若い人にハッパをかけようか」とも。その意欲は「老いゆかん」とは無縁のようだった。

2023年5月22日公開 | 2023年5月21日神奈川新聞掲載

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