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同性愛者の葛藤描く映画「老ナルキソス」 東海林毅監督「日本社会のありよう描きたかった」

老いに直面するゲイ男性の生きる姿に光を当てた映画「老ナルキソス」が、新宿K's cinema(東京)などで上映されている。監督・脚本は、バイセクシュアル当事者の映像作家として性的マイノリティーと社会の関わりを描いてきた東海林毅。欲望、家族、差別、美醜…。初の長編となる本作は、同性愛者らの葛藤を多様な切り口で映し出す。
間もなく喜寿を迎えるゲイの絵本作家・山崎(田村泰二郎)は、老いによって容姿が衰えることを恐れていた。ある日、20代のセックスワーカーのレオ(水石亜飛夢)と出会い、その美しさに圧倒される。作家としてスランプに陥っていた山崎は、自分の代表作を支えにしてきたというレオと心を通わせていく。
山崎は若い頃に恋人と別れて以来、独りで生きてきた。レオはパートナーの男性と同居し、自治体が同性カップルを公的に認めるパートナーシップ制度を利用するか、思い悩んでいる。幼い頃に父を失い、母との折り合いが悪かった彼は、家族になることへの漠然とした不安を抱えていた。

同性愛者が周縁化された時代を歩んだ山崎と、LGBTという言葉とともに、性的マイノリティーへの認知が進む今を生きるレオ。「世代の異なる2人の関係に焦点を当て、とりわけ男性同性愛者を取り巻く日本社会のありようを描こうと考えた」と東海林は言う。
父親に「女々しい」とののしられて育った山崎は「自分で自分を愛するしかなかった」と語り、「正面から愛されるのが怖かった」と打ち明ける。
「同性愛者は欲望が同性に向くことなどを理由に『気持ち悪い』『理解できない』として差別されてきた。特に山崎の世代は、社会の片隅で生きるか、(セクシュアリティーを)完全に隠さざるを得ない状況に置かれる人が多かった」(東海林)

だからこそ、当事者の肉体を見せることを意識した。映画の中盤、山崎が太陽の下で裸体をさらけ出す場面をつくった東海林は、その意図をこう説明する。「70数年の歴史を刻んだ肉体を観客に見せたかった。差別を絶えず受けてきた肉体は、歴史そのものなんです。そこから目を背けないという意味をこのシーンに込めました」。日陰に追いやられてきたゲイ男性の確かな尊厳が、そこにある。
「老いた体は果たして醜いのか。美醜は何によって評価されるのか。そうした問いかけもしたい」と語る東海林はさらに、婚姻の手続きとは異なるパートナーシップ制度への認識を深めてほしいと期待した。
「本作では役所の窓口での様子をはじめ、制度の実態を細かく描写した。さまざまな社会制度の中で家族をつくろうとしたり、人生設計をしたりする人たちがいることを、映画を通じて知ってもらえたらと思っています」

「老ナルキソス」は2日からあつぎのえいがかんkiki(厚木市)で、3日から横浜シネマリン(横浜市中区)でも公開される。
2023年6月1日公開 | 2023年6月2日神奈川新聞掲載
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