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市民オペラの全容を読み解く オペラ上演研究の第一人者、石田麻子昭和音大教授が解説書


 音楽を愛する市民が中心となり、プロの音楽家と一緒にオペラ公演を運営する「市民オペラ」。その全容を読み解く解説書「市民オペラ」(集英社新書)が出版された。著者はオペラ上演研究の第一人者、昭和音大(川崎市麻生区)の石田麻子教授。「日本でこれほどオペラが上演されている謎を追い続けたい」と話す。

 市民オペラは1973年に第1回公演を行った「藤沢市民オペラ」が発祥。石田教授は「本場の欧米などでは見られない日本独自の芸術文化」だという。著書では、日本各地で市民の手によって上演されてきたオペラを通して、市民社会の変遷を描いた。

 市民オペラが日本で根付いた理由は大きく4点あるという。一つは人的資源が整っていたことだ。音大を卒業したり、海外留学を経験したりして日本各地に戻ってきた音楽家が、自身の音楽活動の場を求めていた。かつらや衣装といった舞台を支えるスタッフも、民間ベースで活動していた。
加えて、地域活性化を掲げた自治体の文化政策により資金の確保が可能に。さらに公共ホールの建設が相次ぎ、実際にオペラを見た人から「うちの町でも見たい、出てみたい」という機運の高まりが生まれた。これらが一致し、各地で市民オペラが誕生したと解き明かす。

 現在ではさまざまなエンターテインメントの一つになったオペラ。誕生当時は「西洋に追い付け、追い越せの機運があり、憧れの存在」だったが、現在は「行政がオペラに財政支援する理由がなくなってきている」という。



 ただ、多様なバックグラウンドを持つ老若男女が集まる市民オペラは「文化政策的に考えると、社会包摂の場になり得ている」と指摘する。「みんなで美しいものを作ろうと声を合わせる姿は、他にはなかなかない。関わる人たちを元気にする機会になっている」とほほ笑む。

 石田教授は、2014年から藤沢市民オペラに制作委員会のメンバーとして関わっている。誕生時を振り返って「藤沢はもともと合唱が盛んな地域で、アマチュアの熱量が高かった。指揮者の福永陽一郎さん、市長だった葉山峻さんという強力なリーダーの存在も大きかった」という。同市民オペラは昨年、新型コロナウイルス禍で延期されていた舞台「ナブッコ」を上演した。旧約聖書を題材にヘブライ人への弾圧が描かれた作品で、上演の数日前に始まったロシアによるウクライナ侵攻の状況を重ねたのか、泣いている出演者もいたという。「現実と舞台がクロスオーバーした。奇跡的であり、それが起こったのが市民オペラの舞台だったのは象徴的な出来事だった」と振り返る。

 海外から招致したオペラは高額なチケット代にもかかわらず、鑑賞機会を求めるファンが絶えない。「日本でなぜオペラがこんなに行われているのか、いろんな理由がバウムクーヘンの層のように積み重なっていて、市民オペラはそのうちの何層かにすぎない。その理由を書き切りたい」とさらなる意欲を見せた。

2023年9月15日公開 | 2023年9月15日神奈川新聞掲載

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